曖昧な僕ら。


□AとBの拾い物
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「おっす。ほら、入っていいぜ」

「…」

仕事で呼び出される以外は滅多に顔を出さない事務所(アジト)は一見ただの廃れた喫茶店。
客のいない店内を抜けて奥の扉を乱暴に開けると、その場に居た全員が俺を見てギョッとした。
さらに俺に続いて中に入ってきた少女を見るなり、扉の一番近くに立っていた美女が眼鏡をかけ直す仕草をしながら落ち着き払った様子で言った。

「…隠し子にしてはあなたに似てないわね」

「隠し子じゃねーよ。俺がそんなヘマするかっての」

「あら、そう」

美女は興味を失ったようでそれ以上何も言わなかった。
女の子に適当な椅子をすすめて自分も適当に腰を下ろす。煙草を取り出し火を付けようとしたら、横から伸びてきた手に咥えていた煙草を取り上げられた。

「じゃあ何や、まさか誘拐してきたんとちゃうやろな?」

「んなわけねえだろ。ロリコンじゃあるまいし」

「へー、ロリコンやなかったんか。俺はてっきり…」

「てめえと一緒にすんな。俺は美女専門なんだよ」

「誰がロリコンや。俺かて大人の女子(おなご)が萌え対象や」

「てめえの萌えとかどうでもいいから俺の命の源返せよ」

「ま、お前にわかるわけないわな。最初から期待してへんわ。つかこれのどこが命の源やねん。むしろ削りとられてるやろ」

「いいから返せよエセ関西人」

人の隣でぎゃいぎゃい騒ぐ白髪の女男、通称オカマから奪われた煙草を掻払って今度こそ火を点け肺に源を吸い込んだ。あーやっぱ煙草はうめえ。

「……玲(あきら)」

不意に自分の別称を呼ぶ静かな声にそちらを振り返ると、壁に寄りかかってずっと傍観していたスーツの男が腕を組み近づいてくる。

「隠し子でも誘拐でもなければその子はどうしたんだ?お前が子どもを連れて歩いてるところなんて想像したくもないな」

「なんでアンタまでそういうこと言うかな…」

「日頃の行いだ。いいから説明しろ」

「…あー、面倒くせえな…」

出来ればこのまま何も聞かずに見逃して欲しいところだが、アジトでもあるこの事務所に見ず知らずの少女を連れてきた理由は話さずにはいられない。大げさにため息を一つ吐き出して、自転車を漕ぎながら職場に引き返すBからざっと聞いた話を適当に話した。

 

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