曖昧な僕ら。


□Aのお願いBの葛藤
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無事に映画を見終えたBは暫く興奮冷めやらぬ様子で、それなりに楽しかったAも呆れる程だった。
二大ヒロインのツンデレの方と前作から登場した新キャラの眼鏡っ娘の活躍が嬉しかったと、腹ごしらえに入ったファミレスでも何処が良かったかまだ語るので、Aは無心で聞き流していた。
ニ時間ぶりの煙草は格別に美味い。

「でも細かい所が良く見えなかったんだよね。これはやっぱりバイトがんばってDVDを買わなくちゃ。」

「度が合ってねえんじゃねえの。先に眼鏡買えよ。」

「こう言う時だけ話聞いてんだね。」

喋り過ぎている自覚のあるBは苦笑った。
Aが乗って来た話の内容を思い出し、眼鏡を外して向かいの席のAを見て、また眼鏡越しにAを見るを繰り返す。
Aは煙草を吸うのを止めて難しい顔でそれを見ていた。

「コンタクトにすれば?」

「却下。目に何か入れっぱなしにするとか僕には恐ろし過ぎて出来ない。」

「今時小学生だってコンタクト入れてる奴いるんじゃねえの?」

「他人は他人。僕は僕。」

「チキン。」

「ゴキブリにビビる奴に言われたくないね。」

やっぱり度が合っていないのかと、眼鏡を翳してあちこち見だしたBの手からAは眼鏡を奪い取る。
それを目の前に翳してみて一瞬で頭が痛くなった。

「Aは狩猟民族並に目が良いんだから覗いちゃ駄目だよ。僕は乱視も入ってるんだし。」

「やっぱりコンタクトにしろ。こんなん眼鏡取られたら一巻の終わりじゃねえか。」

「僕みたいな人畜無害な人間はそんな状況に滅多に陥らないから大丈夫だよ。」

「おまえが喧嘩売らなくても売られるだろ。こないだの事、もう忘れたのか?」

「Aに?悔しいけどAには眼鏡があってもまだ勝てないし、…まだね。いつか絶対圧勝してやるけど。」

「…。」

Bは眼鏡を奪い返そうとAの手元に手を伸ばすが、返す気の無いAが避けずとも乱視の所為で見当違いな場所を何度も掴む。

「ちょっと、いい加減に返してよ。」

「コンタクトにしろ。」

「コンタクトだって落ちる時は落ちるだろ。」

「その確率はかなり低いしそんときゃ眼鏡かけりゃ良い。」

「何、心配してくれてんの?」

「したら悪いのか。」

「は?急にどしたの。」

裸眼ではAの表情が読めず今度こそ的を絞って伸ばしたBの手が、Aに取られる。
机に眼鏡を派手な音が立つ程乱暴に放られ、ムッとしたBの唇に柔らかい何かが当たる。
視界は相変わらず呆けているが、少しだけ明瞭になった先には他人の目。
左右色が違う所為で錯覚を起こしそうになる。
Aの目だ。

「今の、見えてりゃ避けるなり抵抗しようとしただろ。」

実際煙草の味のする言葉に、Bはやっと事態を理解した。
空いてる手で拳を作り向かいの席に伸ばすがそれもAに取られた。

「コンタクトにする気になったか?」

「意地でもしない。」

「そんなに俺にキスされたいのか?」

「今のは犬に噛まれたと思って諦める。今度からは相手の危険度を<非常識>から<非常識過ぎる>にまで引き上げて構え、対応する。」

「やってみろ。」

ここがスタッフ入り口前、端のテーブル席で良かったとBは心底思った。
大の男二人がテーブルを挟んで両手を掴み合い物理的に押し問答している光景は、傍から見れば通報ものだ。
ちなみにテーブルの下では同時進行で仁義なき蹴り合いが続いている。
しかしAが急に手を離し、勢い余ったBは大きく前のめる。

 

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