曖昧な僕ら。


□仮称千隼自称C
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こにゃにゃちわ。
はじめましての方もおるやろで、改めまして俺は仮称千隼(ちはや)、自称Cや。
よろしゅう。
俺は外出が日光の次に嫌いなインテリやけど、ある日を境に仕事以外でも外出する様になった。
それは夜、荒んだ心に舞い降りたマイエンジェルに会いにコンビニに行く為や。
今日も今日とて下賤な野郎共の視線を浴びながらオアシスへ向かう。

「いらっしゃいませ。」

機械を通さない育ちの良い声に、心が潤う。
盗聴器越しでも癒されるけど、やっぱり生には敵わへん。
とか言いつつ、実はまだ俺は心の天使の素顔を見た事あらへん。
俺も仕事中に愛用しとる様な瓶底眼鏡が天使の顔を覆ってるからや。
それだけが心底残念やけど、俺という究極のべっぴんを見てもそこらの野郎共みたいに欲に薄汚れた目をせえへんのも心の天使たる所以や。
盗撮はマジで玲(あきら)に殺されかねへんから、いつかこの眼で直接拝むんや。

「♪」

今日はパンを陳列しとる心の天使は、洗濯物を干す時みたいに鼻歌を歌うてる。
予期せず生歌聞けてテンション急上昇、ときめき過ぎて胸が痛とうなって来よった。
まいど隣の天使に覚られん様に平静を保つのも一苦労やけど、そういうのは職業柄得意や。
初めて給料に見合わん職業に感謝したわ。
パンっちゅう繊細な売りもんを気遣う手付きが好き過ぎて、思わず掴もうと手が伸びそうになるんも何とか堪える。

「(あかん。結構経ってもうとったわ。)」

名残惜しいけどそろそろ帰らんと天使に怪しまれてまう。

「すんません。それください。」

帰る前に少し接触しとうて天使の腕の中のソーセージパンを指さしてみた。
別に好きやあらへんけど、天使の腕の中にあるだけで美味そうや。
突然話しかけられて天使は驚いたみたいやったけど、俺の顔を見て満面の笑みを浮かべた。

「まいどおおきに。」

しかも関西弁での接客サービス付きや。
萌えー!とか叫んで抱き着きたいのを必死に堪える。

「上手やね。」

パンを受け取って俺より低い位置にある天使の頭を撫でてあげたら照れ笑いをされた。
あかん。
あんまここに長居しとったら心臓が破れる。
さっさと帰ろと、レジ行く前に飲みもん取りに反対向いたところで異変に気付いた。
けど遅かった。
上下、大量生産されてる黒ジャージに目出し帽被った男が、天使じゃない方のバイト君に包丁を突き付けよった。

 

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