曖昧な僕ら。
□本人の与り知らぬ所で
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珍しく、AとBの出勤時間が被った。
「途中まで乗せてけ。」というAの申し出をBは露骨に嫌がったが、セクハラ親父によって有無を言わさず荷台をジャックされた。
「少し時間あるし、近くなら送って行くよ?」
「コンビニまでで良い。」
その割に背中にべったり貼り付くAを、Bはおっさんのくせに子どもみたいだと苦笑った。
流石にコンビニに着けば解放され、Bは入店前にいつもの様に大事な自転車にしっかりと鍵をかけた。
その様子を、Aは仕事場に向かいもせず煙草を吹かして見守っていた。
「あれ?A、」
「!」
「どうしてまだいるの?」とBは最後まで言えなかった。
Aの背後に、黒い人影が見えたからだ。
髪も全身黒でAに負けず劣らずの無精そうな容貌よりも、あのAが全く気付いていなかった事に驚いた。
Bの視線でやっと気付いたAの手から、煙草が落ちる。
背後の男の目は、微動だにせずBを見ていた。
「面食いっつーか、女のガワにしか興味のねえテメエがどうしたよ。」
「加齢臭がすると思えばテメエか。忍び寄んなって何回言やわかんだよ。殺すぞ。」
「ハッ、あんま平和ボケしてっとクビにすんぞ。」
穏やかではないがAの知り合いと知り、Bは軽く会釈した。
Bの反応に、黒いAが少し歳を取った様な男は少し驚いて、やっとAの肩にのしかかりAの顔を覗き込んだ。
「…おい、どうやってあの可愛子ちゃん落としたんだ?既成事実でも作って脅したのか?ん?」
「可愛子ちゃんってどいつだよ。俺の視界にや瓶底眼鏡と髪型が非常に残念な餓鬼しかいねえけど?」
あーだこーだ、自分について小競り合いの様な言い合いをするおっさん二人を、Bは見比べ、ふと、頭にある可能性が過ぎった。
「(えっと、あれ?似てる気がするけど、違う様な、…いや、うん。ド近視の目は当てにならないしな。)」
話してくれるなら後で聞いてみようと、今は気にしない事にした。
困った様な顔で居心地が悪そうにするBを思いやるまでもなく、AはBに下から上へ数回手を振った。
「行って良ーぞ。」
「えと、お言葉に甘えて。じゃあね。…失礼します。」
Aに短く別れを告げた後、その背後の男に今度は丁寧に頭を下げて従業員通用口から入店した。
勿論、Bはその後の事等知る由も無かった。