曖昧な僕ら。


□バレンタイン
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レンタルショップに着いたは良いが、特に興味の無い俺は暇だ。
目当ての映画がねえのか、困った様にうろうろするBの後ろをついて回るだけだ。
欠伸を漏らし、ふと視線をBから外し目が覚めた。
視線の先に、俺でも知っている大人気アニメのDVDが並んでいたからだ。
時代遅れな黄色のラガーシャツに短パンは置いておいて、主人公のだっさい髪型に瓶底眼鏡の冴えない感じがBにマジでクリソツ。
眼鏡を探す時なんてあまりに似過ぎて抱腹絶倒ものだ。
改めてツボに入り、しかし人目もあるから笑いを必死に噛み殺す。
その一瞬の気の緩みも、同居人は許してくれない。

「わッ!?」

何時の間にか手の届かない所まで行っていたドジで間抜けな同居人は、高い所に手を伸ばしたまま脚立の上で大きく仰け反っていた。
流石に肝が冷えたが、それも一瞬だった。
ストーカーって超怖え。

「大丈夫?」

「す、すみません!って、Cさん!?」

読んだ事はねえが伝え聞く少女漫画みたいな展開に辟易する。
乙女のピンチに必ず逃さず颯爽と現れるのが王子様の仕事らしいが、そんなのは四六時中、ターゲットの動向を監視していないと不可能だ。
俺に言わせればそんな奴は乙女に付け入る為に日頃から虎視眈々と獲物を憑け回すただの変質者、目の前の知り合いが良い例だ。
ガワだけは良い女男に助けられたBは頬を染めて千隼を見上げている。

「大丈夫ですか?」

「今俺がB君に聞いたんやけど?」

「僕は大丈夫に決まってるじゃないですか。」

「なら良かった。気ぃ付けや?」

「はい。」

「全く、保護者は何してんねん。」

Bを抱き止めながらBが落としたDVDを宙で掴んだ千隼は、Bの頭を撫で回した後にそのDVDを乗せてやった。
こいつ、こんなに子どもの扱い上手かったっけ?とか思っている場合では無い。

「おまえこそ昼間っからこんなとこで何してんだよ。」

「暇やで映画でも見よかと思ったんや。何か悪いんか。」

「「…。」」

「(まさか俺がいる時まで俺んち盗聴してBに構いたくて先回りしたんじゃねえだろうな。)」

「(おまえがおる時までB君監視する必要無いやろ。偶然や偶然。いや、奇跡やな。神様ありがとう。)」

後半からBもいるし読唇術で会話を続ける。
案の定、間でBがきょとんとしている。

「(まあ、おまえがおってもB君監視する必要がありそうやな。何があるかわからんのやで目ぇ離すなや。)」

「(脚立から落ちんのはBの自業自得だ。俺の知ったこっちゃねえ。)」

「(ハッ!えらい焦ってた奴の台詞とちゃうな。)」

よしこいつ殺そう。
そう思った時だった。

 

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