曖昧な僕ら。
□ゆきんこ
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深夜。
帰宅途中、大雪の為に電車が止まり、行ける所まで行って降りた駅ではバスから溢れた人間でごった返していた。
何よりも寒くて冷たい。
「申し訳ございません。本日はもう満室です。」
ビジネスホテルからも溢れ、Cはビニール傘で雪を凌ぎながら徒歩での帰宅を選んだ。
「(何糞、現役時代の演習に比べたら温いもんじゃ!)」
しかし、そのビニール傘も突風で直ぐにゴミと化し、思わず膝を付きかけた。
なけなしの理性が、今膝を付くと濡れてより大参事だと踏み止まらせた。
雪が体温で溶け、髪を濡らす。
掻き上げれば冷たい雫が首筋に垂れ、不快だった。
その視界に大雪を満喫する大きな子どもが入った。
「…B君はいつも楽しそうでええなあ。」
「へ?」
急に声を掛けられて驚いたBは、コートの上から雨合羽を着て、鍋掴みの様な手袋を付けた両手で、それはそれは大きな雪玉を押して歩いていた。
真っ赤な鼻をすすり、曇った眼鏡を外して拭い、改めて声を掛けた人間を見て、ぎょっとした。
「Cさん!?こんな日に傘も差さないで何やってるんですか!?」
「B君こそ、遊んでへんで早よ帰り。危ないで?」
「遊びながらですが、順調に帰ってますよ。それよりCさん、傘は?」
Bはバイト先から一生懸命育てて来た雪玉を放り出してCに駆け寄り、自分が巻いていたマフラーをCに差し出した。
手で遠慮するCの首に強引に巻き付ける。
「家、近いんですか?」
「いや?遠いけど電車もバスももうあらへんでな。歩いて帰れやん距離でも無いし、」
「それは大雪でなければでしょう?今日は暴風警報も出てるし、危ないですよ。」
そう言いながらBは雨合羽の下に被っていたニット帽を脱いでCに被せた。
人肌にCが一瞬和む。
それも一度大きく風が吹けば終わった。
「良ければ今晩うちに泊まりませんか?Aは女の人の所に泊まるそうなので、Aの部屋を使って下さい。」
「…そうしてくれると助かるわ。」
そうと決まればと、Bは意気揚々と帰路に戻ろうとして、雪玉の存在を思い出した。
じーっとそちらを見て、またCを見上げた。
Cは苦笑う。
「ええよ。完成させや。」
「すみません。何処まで大きくなるのか、やってみたくて、…ありがとうございます。」
雪玉は、たまに崩れたりしながら何とかマンションの入り口に着き、Bの胸あたりの大きさまで育っていた。