曖昧な僕ら。


□ただいま
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白地に、角度を変えればそこかしこに見える白のきのこの刺繍が面白い、お気に入りのシャツ。
バイト仲間の知り合いの経営するショップで買った、数量限定生産品だ。
今日、バイト仲間の佐藤君と遊びに行く時に着ようと思って出して、固まった。
左胸の所が、焦げて小さな穴が空いていた。

「悪り。」

勝手に部屋に入られても、あまつ、勝手に添い寝されても、お気に入りの漫画を汚くされても、取っておいたプリンやアイスを食べられたりしても、洗面所を水浸しにされても、泥だらけでソファで寝られても。
不機嫌になるだけで折れてあげて来たけれど、今度という今度は許すものか。

「お気に入りの服だったのに!もう売ってないのに!しかも何でこんな目立つ所に灰なんて落とすんだ!何しても隠れないじゃないか!」

「だーかーらー。謝ってんだろ?悪かったって。」

「だからはこっちの台詞だ!歩き煙草しないでっていつも言ってるだろ!?特に洗濯物畳んでる時は!」

「あー、もー、うっせえな。何度も言われなくても聞こえてる。」

「うるさいだと!?何度言っても聞かないくせに!それが聞こえてる内に入るか!」

僕は何も悪くない。
Aが全面的に悪い。
日頃の怨みも込めて声を大にして糾弾してやる。
でも悲しいかな。
普段あんまり怒ったりしないから、怒り方がわからない。
この怒りをどう表現すれば良いのか悩んでいたら、黙りこくって結構時間が経っていた。

「…チッ。」

え、何、今このおっさん舌打ちしやがった?
口喧嘩の末、手が出る奴の気が知れないとか思ってたけど、今少し気持ちがわかった気がする。
この丈夫なおっさん相手なら許されるだろうと、思わず握り込んでいた拳を何処にぶち込んでやろうか悩んでいたら、Aが立ち上がった。

え、何、やられる前にやっちまえ的な?
思わず身構えたら、Aは無言のまま横を通り過ぎて行った。
そして、そのまま出て行ってしまった。
Aが閉めた扉を見つめて数秒。

「はあ!?何あのおっさん!?マジで人間終わってる!」

僕は近所迷惑も省みず、叫んだ。

 

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