曖昧な僕ら。


□先輩後輩
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大学三年生の中村の家は、バイト先からそう遠くは無いが、電車を乗り換えなければならない。
しかし、中村の部屋は母屋から離れた場所に建てられたプレハブ小屋で、飲み会には持って来いだ。
定期的にバイト仲間に集られる事になるのだが、成人式の後の同窓会で酒に目覚めた中村にとって苦では無かった。
むしろ、バイト仲間同士仲が良く、自分から「次はいつにする?」と持ちかける程、楽しみにしている。
今夜の参加者はバンドマン佐藤21歳、伝説のフリーター高橋29歳、脱サラして今はただのチャラ男渡辺25歳、そして冴えない眼鏡B23歳の五人だ。
残念な事に、鈴木を初めとするツッコミ要員はシフト、あるいは別の用事で不在だ。
一番年上で太っ腹な高橋はいつも一番出資しながらも、中村の部屋のテレビゲームをツマミにほぼ一人酒。
渡辺は流石元営業、場を盛り上げる話題に事欠かない。
佐藤は自分も楽しみながら、掛持ちのバイトで磨いたツマミや酒の気配りを忘れない。
中村は時々酒を片手に高橋の隣に行っては、ゲーム攻略についてアドバイスと檄を飛ばす。
その度に敬語も持ってけと思うBは、見つけた漫画を一巻から読み続け、気付けば二桁の大台に乗っていた。
その傍で、Bが愛飲する佐藤の作ったアルコール度数が甘酒程度のカクテルが暇そうにしていた。

「ねー?田中さんってばー!聞いてるー?」

中村の陽気な声にグランドラインから呼び戻されたBは、すっかり鼻まで下がった眼鏡の上から飲み会会場を見て、瞬いた。
まさに夢から覚めた状態のBは、笑いを誘った。

「今、自分達の高校の制服がどんなだったか話してたんです。」

「そーそー。小林んとこの制服って小洒落てるじゃねえッスか。似合わねえよなーって話からそうなったんス。」

小林君はBと似たり寄ったりの眼鏡をかけた、高校二年生だ。
決定的にBと違う所は、血の気の有無と眼鏡を外さない方が良い事だ。
Bが眼鏡をかけ直せば、佐藤は紙に絵を描いていて、渡辺は中村の高校のアルバムを捲っていた。
佐藤の母校の制服は学ランで、中村は紺のブレザーだ。

「ちなみに俺は学ランだったべ。詰襟嫌いでニットばっか着てたな。」

「あ、ナベさんもッスか?俺もそれわかるッス。」

「中高ボタン変わるだけだったからマジブレザーとか憧れたよなー。」

「いや、俺は中学はブレザーだったんでむしろそん時は学ランに憧れてたッス。」

二人が楽しそうに盛り上がっているので、Bは息を殺して空気に徹したが、佐藤が見逃す筈が無い。

「田中さんは?」

「それより高橋さんは?ベテラン土建っぽい外見と男らしさで都会のチャラついたブレザーとかだったらヤダなー。」

「安心しろ。中高と学ランだ。おまえは眼鏡外してりゃそういうの似合いそうだよな。」

「そうスか?それより僕にも中村君の卒アル笑わせてよ。」

「え〜?田中さんたら笑うの前提ッスか〜?ヤダ、見ちゃいや〜ん!」

Bは、気持ち悪い中村が高橋に割と痛そうな拳骨を喰らうのを尻目に渡辺に手を伸ばす。
渡辺は笑顔だ。

「で?瓶底眼鏡がクソ残念な田中さんが黙るっつー事は、似合わねえシャレオツなブレザーくせえんスけど?」

「残念ながら瓶底眼鏡と相性抜群の学ランです。」

渡辺はBに中村の卒業アルバムを渡した隙に、佐藤に目配せをする。
正しく受け取った佐藤はBの為の酒を作り始めた。

 

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