曖昧な僕ら。
□いぬのきもち
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夕方四時からのタイムセール。
Bはお一人様お一つ限りの激安トイレットペーパーを買いに、家でごろごろしていたAを引き摺り出した。
「うちのトイレットペーパー、ケチらずちょっと良いやつなんだよ?いっつも安い時狙って買ってるんだ。それがこの値段なんてあり得ない。ほんと、二人とも休みで良かった!」
「いつもと五十円しか変わらねえんだろ?」
「世の主婦達に刺されて死ね。」
「美人なら良いかもな。ふあ!畜生、眠てえ。」
日も高くなり、まだ二人の頭上は真っ青だ。
授業を終えた小学生達の波に紛れ、主婦達の戦場に良い歳こいた大の男二人が並んで向かう。
そうでなくとも、金髪無精髭と瓶底眼鏡の二人組は異様だ。
そんな二人に声を掛けられる猛者は、非常線が張られた時の警察官か純真無垢な子どもだけだろう。
後は動物だけだ。
高さの違う所にある二人の目は、同じ物を見下ろしていた。
「隠し子?」
「それにしちゃ毛深いだろ。」
「いやいや間違いないよ。金のくせっ毛がもう二人の親子関係が疑いようの無いものだと物語っているよ。そろそろ認知してあげなよ。」
「野良な訳ねえから、捨てられたか逃げて来たかだな。」
そう言ってAはBよりも先にしゃがみ、クリーム色のダックスフンドを抱き上げた。
「人懐っこいね。」
「いつから遊び回ってんのか知らねえが、腹減ってんだよ。」
「じゃあ僕ご飯買ってくるよ。直ぐそこ僕んとこのコンビニだし。」
「おう、ダッシュで行って来い。」
「直ぐそこって言ってんのに、それすらも億劫かこのダメンズ世界代表め。」
Aの蹴りを軽くかわしたBはコンビニに向けて走り出す。
「探すの面倒だからあんまり遠くに行かないでね。」
「おう。」
AはBの背中を見送り、腕の中から見上げる犬に笑いかける。
「どうだ、利口な犬だろ?」
「わん!」
Bは犬の鳴き声を聞いたが、残念ながら犬語を理解する事は出来なかった。