曖昧な僕ら。


□持つべきものは
1ページ/2ページ


梅雨に入り、晴れの日は珍しい。
Bは久し振りの青空を堪能しながら、本屋の帰り ふと テーブルの上を思い出した。
ヘビースモーカーである同居人は残り丸々一箱持って出掛けたが、帰る頃には空っぽだ。
ニコチン切れで理不尽に怒られる前に、右向け右でたまたまそこにあったコンビニに入った。

「いらっしゃいませ。」

「すみません。アークロイヤルありますか?」

Aご愛用の煙草、アークロイヤルを置いているコンビニは少ない。
Bは入店直後、眼鏡を掛けた中年男性に尋ねた。
よく見ると、中年男性の名札の上半分には店長と書かれていた。
最初は笑顔だった店長は眼鏡を押し上げ、眉間に皺を寄せた。

「あるよ。」

「良かった。じゃあ、」

「でも君に売る事は出来ない。」

「へ?」

早速ボディバッグから財布を取り出そうとしたBは、ぽかんと店長を見上げる。
その表情に、店長は眉間に皺を増やした。

「君、年齢は?二十歳以上である事を証明出来るかい?」

「えっと、どう見ても二十歳以上だし僕が吸うんじゃないんですけど。」

「皆そう言うが、例えお使いであっても未成年に煙草を売る事は出来ない。」

店長はレジの横のPOPを指さし、腕を組んだ。
Bは保険証を持っていなければ、免許も持っていない。
諦めて帰る事にした。

「じゃあ良いです。」

「待ちなさい。」

「え?」

Bはカウンター越しに店長に腕を掴まれ驚いた。

「君、どこの学校の生徒だい?」

「僕もう社会人です。」

「社会人だからと言って成人とは限らない。何処で働いているんだい?」

「だから成人ですし、コンビニですけど。」

「学生アルバイトだろう?何が社会人だ。」

店長はBの腕を掴む力を強くし、店の奥を見た。

「丁度良い。今日はお客も少ないし、もう直ぐ警察の人が巡回に来る。今回は未遂だが、裏を貸してあげるからしっかり叱って貰いなさい。」

「え゛!?」

それは拙い。
もし万が一アルバイトで使っている名前が偽名である事がバレたら、色々拙い。
本名を名乗れば親に連絡されてそれこそ拙い。

「もうしませんから!」

「ほうら、やっぱり。君は未成年だ。」

「え、いや、違いますってばーッ!」

半泣きのBは身を捩って何とか店長の捕縛を振り払ったが、運悪く警察官が到着した。

「その子を捕まえて下さい!」

店長が大声を出した時、Bは既に警察官の横を通り過ぎ、走り出していた。
時間があれば夜中だろうと走って体力を付けている真面目なBの足は速い。
しかし、警察官だって負けてはいない。

「僕が何をしたって言うんだ!」

理由はわからないが逃げ出した一般人に振り切られたとあっては恥なのか、警察官が応援を呼ばなかった事だけが救いだった。
Bは逃げながら思い付く人物に電話を掛けた。
誰かが来てくれれば無実を証明出来る筈だ。
Aは論外だ。
現れた瞬間、警察官はAの極悪面に対して条件反射で発砲してしまうかもしれない。
Cも論外だ。
迷惑は掛けたくない。
鈴木も中村も学校だろう。
高橋と佐藤は多分仕事で、渡辺はよくわからないけど出ない。
掛け続け、三巡目で一人と繋がった。

「どうしました?」

「助けて佐藤君!今、警察に追われてるんだ!」

そんな呼び出しに二つ返事で応じた佐藤を、後で話を聞いたAは感嘆の溜め息を吐く程尊敬した。

 

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ