曖昧な僕ら。


□濁った牛乳
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Bは暫く奇声を発したまま街中を駆け回り、少しだけ落ち着いたが酸欠とまだ止まぬ精神的衝撃に目が回っていた。
ふらふらと見知らぬ道を行き、人気のない所に出た。

商業地区の割に何の会社が入っているのかわからず活気は無いが、今のBには有り難かった。
壁に寄り掛かりぐるぐる回る頭を抱えていたら、人の気配がしてビルの入口横の郵便受けに慌てて隠れた。
人の気配はどんどん近付き、一階にそれ以上隠れる場所が無いとわかったBは、今誰にも顔を見られる訳にもいかず、「お邪魔します」と一段飛ばしで階段を登った。

「closed」の札が下がったお洒落な扉の前にしゃがみ込み、膝を抱えて顔を埋めた。
人の気配は遠ざかり、静かなそこで世界から隠れる様に息を潜めた。
折角一人になれたのに、その時間はあまり長くは無かった。
下から上がって来る足音に驚き顔を上げたBは、逃げ場所を求めて上を見上げたがそれではまた追い詰められるだけだ。
精神的にもう追い詰められたくなくて、無意識に目の前にドアノブに手を掛けた。

予想に反して扉は開き、後ろめたさはありながらも直ぐに中に駆け込んだ。
その中は扉の雰囲気から飲食店だとは思っていたが、打ちっ放しの殺風景な壁に、統一感の無い、強いて言うなら夜の店に置いてありそうな雰囲気で統一された家具が並び、四つ程のブースに区切られていた。
その内の一つ、ベルベットの毛並みが美しいボルドーのソファに寝そべっていた男が跳ね起きた。
銀の長髪は束ねられておらず、ブラインドの隙間から漏れる夕日を通し、その男の美貌も相まって幻想的ですらあった。

「B君?」

「Cさん?」

Cは組んでいた長い足を解いて振り子にし、ソファから飛び降りてBに駆け寄った。

「何、泣いとんのや?何か怖い事でも遭ったん?」

今にも崩れ落ちそうなBに軽く両手を広げれば、Bは迷子が母親を見つけた時の様な必死さでその胸に収まり、泣きじゃくった。

「もう大丈夫やで。俺がおるさかい。な?」

とりあえずCはBに好きなだけ泣かせる事にして、片手は強くBを抱き締め、片手で背を叩いてやった。
その一部始終を、B乱入からカウンターでずっと固まったままの恵麻(エマ)は隠れるのも忘れて見入っていた。

 

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