曖昧な僕ら。


□肝試し
1ページ/8ページ


客も疎らな深夜、Bは一緒に入っている渡辺25歳と一枚のチラシを見て小声で盛り上がっていた。

「僕もう、小林君のリアクションが楽しみ過ぎて寝れないッス。」

「超わかる。当日ヅラとか持ってって全員で小林苛めてやんのも良いッスね。」

「いや、それは流石に可哀想過ぎますよ。多分普通にしてても充分面白い物が見れますって。」

「はは!じゃあ田中さんに仕掛けようかな。」

「絶対止めて下さい。ガチ泣きした後、暴れ回りますよ。」

「うへ、それはご勘弁。田中さん、その容姿でその強さは反則ッスよ。昔、相当やんちゃだったでしょ。」

「さあねえ?」

眼鏡の上から見上げるBに、渡辺は鼻を鳴らす。

「佐藤じゃあるまいし、上目使いしたって見逃してやりませんよ。」

「あはは!何それ?じゃあ佐藤君、背え高いから大変だね。」

「え゛?いやいや、佐藤はあんた限定スから。」

「何が?ああ、佐藤君の顔見ようとすると目だけ動かすだけじゃ駄目な感じが?」

「…ガチで?」

「?」

Bは顔を動かし、眼鏡越しにきちんと矯正された視力で渡辺の顔をハッキリと見た。
渡辺の顔には「ドン引き」と書かれていた。
Bが「喧嘩売ってんのか」と渡辺の脇腹を小突こうとした時だった。

「こら、仕事しろ!」

「「!?」」

「なーんてな。」

急に掛けられた男の声に驚いた二人は、レジ横の保温庫から顔を出した男を見て更に驚いた。
今日は黒髪だが、Bがこの顔を見間違える訳が無い。

「Cさん?」「うわ、イケメン。」

Bと渡辺の声が重なり、Cは苦笑う。

「こんな時間に二人入ってるとか、珍しいやん。」

「いえ、実は俺もうタイムカード打刻してるんで。」

渡辺は先程までBと見ていた広告を ペロッ とCに見せた。

「すみません。明日皆と遊びに行く約束をしていて、その話をしていました。もう帰ります。」

「こっちこそ話の腰折ってしまって悪いなあ。ちょっと驚かせるだけのつもりやったんや。」

「いえ、悪いのは残ってた俺ですから。」

言葉とは裏腹に「バイバイ」と振られるCの手を睨む渡辺に、Cは更に笑みを濃くする。
渡辺は薄ら寒くなり、Bよりも後ろへ引いた。

「じゃあ、田中さん。数時間後、いつもの場所で。」

「はい、お疲れッス。」

「おつー。」

ぽんぽん とBの頭を叩いた渡辺は更に寒気を感じ、いそいそと更衣室へ引っ込んだ。

「(おいおい、イケメンの間じゃ瓶底眼鏡が流行ってんのか?)」

とすると瓶底眼鏡に何もときめかない自分はイケメンではないのかと、鏡を改めて覗き込んだ。

「(瓶底といやあ小林もか。…結局は顔か。)」

Bの素顔を思い出し、それだとわからなくもないかと納得し、納得してしまった事に落ち込んだ。

「B君、ホラーとか好きなん?」

「はい。まあ、人並みに。」

BはCが持って来た商品のバーコードをスキャンしながら答える。

「こういうのって彼女と行くもんとちゃうん?」

「僕、今彼女居ないですし。居たとしてもこのメンバーでも行くと思います。」

「へえ?」

「絶対楽しいですから。」

そこで顔を上げて微笑むBに、Cは左胸を押さえた。
Bは小計をモニターで示し、商品を袋に詰めながら話を続ける。

「学生の時は家が厳しくてあんまり羽目を外して遊べなかったから、今毎日凄く楽しいです。」

「そうか。それは良かった。」

Bから袋を受け取り、Cは手を振る。

「楽しんで来てや。」

「はい。」

Bは手を振り返し、カウンターを出て商品陳列に向かった。

 

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ