曖昧な僕ら。


□貴方も私も
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11月11日。
誰もが知る細長いお菓子の日だ。
勿論、冴えない瓶底眼鏡君でも知っている。
Bはソファを背凭れにDVDを観ながら、ぽりぽり齧った。
ソファの上で寝煙草をしていたAは、「僕流」と呼ばれる妙なこだわりのあるBにしては珍しく、ポップコーン以外の映画鑑賞のお供に興味を持った。

「おまえ、そんなにボッキーが好きだっけか?」

「ん?別に。って、ああ、うわあ、はあ。」

「喧嘩売ってんのかコラ。」

疑問からの納得、そして呆れ。
Bの明瞭な表情の変化に、Aの機嫌も明らかに悪くなった。
Bは怒れるAの口から煙草を抜き取り、間髪入れずに糖分を差し込んで黙らせた。

「どうせ知らないんだろ?」

「どうせって何だよ。喧嘩売ってんのか?」

「本当に世間知らずだなって呆れてんの。」

咥え煙草の要領で器用に喋って黙らないAに、Bは指の間にボッキーを挟んで四本立てた。

「今日、11月11日はボッキーの日なんだよ。」

「何で?」

「見てわかれ、裸眼で2.0。」

「うわ、くだらねえ。」

「黙れ少数派。社会は多数決で成り立っている。」

「くっだらねえ。」

「それは僕もわからないでもない。」

Bはボッキーを二本同時に咥えて、話す間に進んでしまったDVDを少し戻し、一時停止させた。
もう片方の二本は、口を開けたAに食べさせた。

「そういえばさ。ボッキーゲームって何したら勝ちなの?」

「相手が負けたら消去法で勝ちだろ。」

「二人とも負けなかったら二人とも勝ちって事?」

「勝負って字面をもっぺん良く見ろ。」

「成り立たないって事?」

「どっちか一人でも相手に嫌悪があれば勝敗は着く。お互いに下心がありゃただの茶番だな。」

「ふうん。」

割とまともに相手をしてやった筈のAは、DVDを再生するBの気の無い返事に苛っとしたが、チョップをお見舞いする前にBに振り向かれて止めた。
Bの手は再び一時停止ボタンを押している。

「僕、Aに勝てる勝負を思い付いた。」

「俺は負ける勝負はしねえぞ。」

「へえ?Aでも僕相手に尻尾を巻いて逃げたりするんだ?」

「…上等だ。泣かしてやらあ。」

ボッキーを咥えて上下させるおちょぼ口のBを、Aは手招く。
ソファの上のAの上に跨ったBは、Aの胸倉を掴んで顔を近付けた。
ゆっくりではあるが、確実にBの顔が近付く。
Bの眼鏡は見事な瓶底だ。
良く見ると本当にぐるぐると円を描いている様に見える。
ぐるぐるぐるぐる…
負けじとボッキーを齧っていたAではあったが、チョコレートが掛かっていない部分すら齧り切れない内にボッキーをへし折った。
口を押さえて青い顔をするAに、Bは両手を上げて喜ぶ。

「わーい!Aに勝ったー!」

「うぷ。テメエのツラ、何か酔う。」

「失礼だな。まあ良いけど。勝ちは勝ちだもん。」

テーブルの上のリモコンに手を伸ばし、再生ボタンを押しながらAの上から降りようとするBの横顔を、Aは見上げる。
自分の敗因なんて考えるまでも無い。
Bの顔から瓶底眼鏡を奪い取り、ソファに押し倒した。

「うわ!?やっぱり人間終わってる!」

物理的報復を予想したBは目をキツく閉じたが、Aの報復に痛みは無かった。
とある大きな可能性に目を開ければ、左右色の違う瞳が目の前にあった。
思いっきり暴れても、どう見ても肉体派のAはびくともしない。
漸く解放された時には、Aのキスが苦くて甘い事を知ってしまっていた。

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

「口を離したな?俺の勝ちだ。」

「はあ!?」

自分の唇を舐め、不敵に笑うAにBは拳を振り上げる。
軽く避けられてしまうが、物理的抗議を止められない。

「ボッキーなかったじゃん!何処にゲームが存在した!?ただのセクハラじゃん!!」

「それもそうか。じゃあ、ほれ。」

Aはテーブルからボッキーを一本取り、口に咥えてまたBに覆い被さった。
負けず嫌いのBは口を開けかけて、止めた。
近付くAの顔から顔を背ける。
Aはボッキーの先でBの頬を小突きまくる。
目尻に涙を浮かべたBは、悔しげに口を開いた。

「僕の、負けです。」

「わーい。Bに勝ったー。」

「畜生!トラウマ決定だよ!!」

「テメエが俺に勝とうなんざ百年早え。」

「今に見てろ!」

Aは身体を起こして新しい煙草に火を点け、ボッキーを凶悪な音を立てて自棄食いするBに少しだけ煙を吹き出した。




ごちそうさん。 by A

 


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