曖昧な僕ら。2
□Bと雪の王子
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AがBに送り付けたボードウェアは、下はイエロー地にピンクの三本線、上はピンク地に黄色の大きな笑顔マークと星柄という、雪山でなくとも目立つ色だ。
遭難しても空から良く見える事だろう。
Bはわくわくするだけでそんな心配を微塵もしていないが、僕流にマッチしたのでとても気に入っている。
実際に選んで購入したのはCだが、Aはボード初心者のもしもに備えて色にだけは口を出した。
そもそも自分が傍に居てそんな目に遭わせたりしないが、Cは出会って初めてほんの少しAに対して感心した。
「良く似合ってるッス!田中さん!」
「ピンクが似合う男、田中!畜生!」
「その柄を等身大で着こなせるのが田中さんの凄い所だよな。」
「そうかな?」
そしてCは佐藤、中村、渡辺の言葉を一つずつ縦に首を振って肯定した。
Bは大きなぽんぽんが付いたイエローのニット帽を被り、ゴーグルを乗せた。
佐藤は、上は紫のチェックに下は黒。
中村は迷彩の上に茶色の下。
渡辺は赤地に白のストライプの上にベージュの下。
Cは黒一色のツナギタイプだ。
「田中君は俺が手取り足取りレクチャーすんで、君らは先に遊んどき。」
「いやいや、椎さん滑って来て下さいよ。田中さんは俺が看ますんで。」
年長者にそんな事はさせられない。
渡辺の申し出を、CはBの肩を抱いたまま笑顔を横に振って拒んだ。
渡辺もそこまで無粋では無い。
一応社会人として常識がある所を見せただけだ。
滑りたくてうずうずしている中村と、教えたいけど感覚派で名乗り出られず悔しそうな佐藤の肩を叩いてリフトへと向かった。
BはCを見上げ、首を傾げる。
「本当に良いんですか?」
「何が?」
「僕、運動神経だけは自信があるので一人でも直ぐに滑れる様になると思うんです。」
「最悪、転んで止まればええて思っとるやろ。」
「…思ってます。」
CはBの尻を軽く叩き、悪戯っ子の様に歯を見せて笑う。
「B君の可愛いお尻がお猿さんみたいになってまったら嫌やろ?」
「えー?そんなに?」
「俺の知り合いは初ボード初滑走から同期に放置された次の日、尾てい骨が痛過ぎてデスクワークをずっと空気椅子でやっとったって話や。」
「よ、よろしくお願いします。」
「任せとき。」
半信半疑だったBは、自分の尻を押さえてCに頭を下げた。