曖昧な僕ら。2
□約束された爆発
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Aは一仕事を終え、赤い汚れをアジトのシャワーで洗い流し、半裸でカウンターに突っ伏した。
ちなみに一度全裸でシャワー室から出て来たら恵麻(エマ)の手によってある部分を重点的に再起不能にされそうになった為、パンツの上にもう一枚、すなわちズボンは必ず身に付ける様にしている。
恵麻はAの手元に缶ビールを置き、Aが持って来た遺品に含まれるデジタル系のデータ解析を始めた。
「あーあ。よりにもよって何で今日、帰って来るんだか。」
「あー?納期は三日後だろ?余裕じゃねえか。」
「そうよ。だから三日後まで残業は無いと思ってたわ。」
「はあ?納期ギリだとぎゃあぎゃあ喚くくせに何言ってやがる。」
「そのやる気は普段に発揮して、今日発揮すんじゃないわよ。」
「回りくどい。テメエの住所を今まで振って来た男共に流されたくなかったら何が言いたいかはっきり言え。」
恵麻とAの雰囲気が悪くなり、Cは恵麻を応援しながらとばっちりはごめんだとソファに身を縮めた。
恵麻はAの頭の近くに拳を打ち下ろし、答える。
「今日は乙女の一大イベント、バレンタインデーなのよ。テメエ等みたいに女泣かせてばっかの糞野郎どもには関係ないでしょうけど、私にはデートの約束があったのよ。」
「んだよ、そんな事かよ。」
「そんな事ですって!?」
「どうせその男も長く続きゃしねえだろ。男泣かせてばっかの女に何も言われたかねえな。」
恵麻はスーツの内ポケットに入れていたボールペンを取り出し、Aの頭に狙いを付ける。
Aは何が迫っても動くのが億劫で突っ伏したままだったが、恵麻の言葉を反芻して覚醒した。
「そうか。バレンタインか。」
勢い良く起き上がったAに、恵麻は吃驚してボールペンを慌ててお尻の後ろに隠した。
「何、急に何なわけ?」
「俺、帰る。」
「可愛くないわよ、アラサー髭天パ。」
「テメエもな。」
Aは恵麻が再びボールペンを振り被るのを尻目に、素肌にいつものミリタリーコートを羽織った。
「チョコレートが俺を待っている。」
「いつ現れるかもわからないあんたの為に、あんたの女がチョコレートを用意してると思わないけど?」
「あいつが用意してない訳が無い。俺を怒らせるとどうなるか、身に沁みてわかってる筈だ。」
「あいつってまさかB君の事?」
「ああん?俺にチョコレート用意する奴なんざ、あいつの他に誰がいんだよ。」
今日も寒いのでフードを被ったAは、ポケットに両手を突っ込んでいそいそと出口へ向かう。
その背に恵麻では無くCが吠える。
「リア充木端微塵になりやがれ!!」
Aは少し振り返って勝ち組の微笑みを見せて扉を閉めた。
「あんた、甘い物嫌いでしょうよ。」
「そうやけど!そうなんやけど!俺かてB君とバレンタイン過ごしたいーッ!」
「はいはい。スマホの分析、標的が何処ほっつき歩いたかまでさっさとお願いね。」
恵麻はデート相手の為に用意していたチョコレートを開け、それを夜食に残業に励んだ。