曖昧な僕ら。2

□イケメンの報酬
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昼はサラリーマンが通り抜け、夜は邪まな男達が足を止めて賑わう商業ビル群。
まだ日は高く、日光に焼かれたビルは朧に見え、個性が掻き消され、ふとすれば迷い込みそうな街。

その内の一つである寂れた商業ビルの一室である常に準備中の喫茶店は、外から見れば無個性だが内装は個性的に過ぎる。
コンクリートが打ちっぱなしの壁に、刑事ドラマに出て来るブラインドは開け放たれる事は無い。
しかし、調度品は良く見ずとも全てが高級で品が良い。
カウンターはただの丸椅子が置かれただけで質素だが、テーブル席は一ブースごとに素材やデザインが大きく異なり、各テーブルに置かれた硝子の灰皿を筆頭に、露出の多い女性の給仕付きの飲食店の雰囲気で統一されている。

特にボルドーのソファを愛用する千隼(チハヤ)は、常に傍らのテーブルに数台のスマホを転がし、軽さと機能性を両立した自作のパソコンで仕事に勤しんでいる。

「千隼、お昼は?」

「いや、今日も得意客と食うでええわ。」

「そ。」

店が混む前にと、恵麻(エマ)はパソコンを閉じ財布を持ってカウンターから出た。

「戸締りよろしくね。」

「うーい。」

千隼は恵麻から飛んで来た鍵を見もせずに受け取り、パソコンの右下で時刻を確認し、また仕事に戻った。


飲食店が並ぶ複合施設の地下、ピークは過ぎたが名残で賑わう時間帯。
チュニックにスヌードを重ね、レギパンをブーツイン。
髪を軽く編んでニット帽を被り、セルフレームの眼鏡を掛ければお洒落を意識しているただの少し背の高い女子大生に見える千隼は、直前まで弄っていたスマホをキャンパストートにしまった。
指定した店の前に並ぶ、今はもう必要とされていない順番待ち用の椅子に腰掛ける男に手を振る。
男は手を振り返し、立ち上がった。

「何食う?」

「Cランチ、デザートセットで。」

それが合言葉だ。
二人で店に入り、奥の席を選び、腰掛ける。
千隼は男と話す間もスマホを操作し続け、食事が届いてからは三動作を器用に同時にこなした。
目の前の女子大生風の人物が身長相応の男だと知っていれば、小さなサラダと可愛らしい器に入った海老グラタンでは小腹すら満たせないとわかる。

「忙しそうだな。」

「まあ、奢りやしな。折角やし、色んな店の味が知れて一石数鳥や。」

食後のデザートとドリンクが届く。
千隼はチーズケーキをSDカードと共に手の甲で男の方に押しやり、アイスコーヒーをブラックのまま飲み干した。

「まいどあり。」

男が食べ終わるのを待たず、席を立つ。

「所長からの伝言を聞いて貰うまでが俺の仕事なんだが?」

「あの金色モップお化けなんぞを好いとる変態童顔親父の誘いなんぞ、聞くだけで別料金からの結局お断りや。」

「それを伝えて欲しいならこちらこそ駄賃を貰うぞ。」

「ケーキやったやろ。」

「俺の金だ。」

男は去り行く背を目でも追わず、おやつ時にはまだ早く閑散とし始めた店内でチーズケーキを味わった。

 

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