曖昧な僕ら。2

□イケメンの報酬
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どれも同じに見える商業ビルの一つの前で、千隼は冷たい表情で通話を切った。
アジトに帰って早々、ベージュのショールと使い捨てマスクを剥ぎ取ってテーブルに投げ捨て、お気に入りのボルドーのソファに寝そべった。
スリッポンを明日の天気を占う様に脱ぎ捨て、タイトなカラーパンツに包まれた美脚を組む。
恵麻は千隼が通り過ぎた時に漂った匂いで、夕飯を決定した。

「今日は何処のラーメン屋?」

「大通りの、…あー、4回前の女子会に使った居酒屋の向かいの道沿いにあったドラッグストアの小道に入って直ぐの店。」

「へえ、女一人でも入れそう?」

「カウンターあったでいけるやろ。」

満腹の千隼は睡魔に襲われたが、ミントが良く効いたタブレットを数粒口に放り、スマホを操作した。
少し目を閉じ、相手が出るまで両手を頭上に伸ばして休む。

『おいカマ野郎!聞いてんのかコラ!!』

煙草と酒で枯れた男の声が微かに聞こえ、半分程目を開けた。
スピーカーモードにしないのは、恵麻への気遣いだ。
スマホを耳に当て欠伸を漏らした。

「おー、すまん。ちょい寝とったわ。」

『テメエが掛けて来たんだろうが。』

「直ぐに出えへんからや。」

千隼の話し相手が金色モップお化けであると、遠いカウンターに居る恵麻でもわかる。
千隼は玲(アキラ)が堪忍袋と共に通話も切らない内に、目を全部開けた。

「良い情報があるんやけどなんぼで買う?」

『あ?』

「今なら安くしとくで?」

今まさに通話を切ろうとしていた玲は思い直し、口元を引き攣らせた。

「テメエ、まさかまた俺の情報売りやがったな?」

『だからなんぼ出すんやて。』

「ド汚なく生きてやがんな、畜生。オセーボとやらはホウ酸団子の詰め合わせで良いか?」

『俺みたいな超☆優秀な情報屋がただのチンピラ一匹の動向調査が出来へんとかあり得へんやろ。おまえなんかに巻き込まれて俺まで怨まれたくないねん。』

「1.5倍までだ。」

『ふわ〜あ。何て?』

「制汗剤と間違えて殺虫剤噴き掛けて死ね。倍だ。」

『よし、来た。そいつらの思惑と売った情報の詳細を送ったるわ。』

「待て。“ら”って事はまさか?」

『そんなアナタにもう少し上乗せしてくれるなら良い情報があるんやけどなー?』

「隣が焚いた燻煙式の殺虫剤で寝てる間にじわじわ死ね。…Bのパンツで良いか?」

『…一瞬考えてもうたわ。』

千隼は玲との通話を切った後迅速に情報を送信し、そのスマホをテーブルに放った。
頭の下で手を組んで目を閉じ、眉間に皺を寄せ、ハッと目を開いて手探りでテーブルの上から一つのスマホを掴んだ。
そのスマホだけはBと書かれたケースに入れられている。
両手で持って操作し、今度はスピーカーモードに切り替えた。

 

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