曖昧な僕ら。2

□ムカ着火ファイヤー
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何がどうしてこうなった。
Bは不細工な男達を見上げて味のしない苺を食べた時の様な顔をしていた。
確か数分前まで、アルバイトの後に駅前にある深夜まで営業している量販店に足を運び、ガチャガチャを楽しんでいた。
間違いない。
最近の仕事帰りの楽しみだ。
戦利品は玄関の棚に並べている。
初めは同居人が「何の儀式だ気持ち悪りい」とか言っていたが、そいつは元より大雑把で細かい所に気付けない無神経野郎なので、10を超えた辺りから増えても気付かなくなった。

某市の非公認全国区ゆるキャラのマスコットを何処に配置しようか考えながら話を聞いていたら、嘗めているのかと小突かれた。
早く飽きてくれるか、得意の荒事に発展しないものか。
果物の妖精さんの配置が決まった今、Bは帰りたい一心でそれを露骨に顔に出してしまった。
品も教養も無い不細工達は馬鹿にされる事に敏感で、油を注がれた火の様に燃え盛った。
その火の粉がBの胸倉に飛んだ時、Bは後ろから伸びた手に引かれて難を逃れた。

「もう、太郎ちゃんったらこんな所に居たの?探したのよ?」

「え?あっ、」

「一人で先行かないでって言ってるのに。私がこんな時間に迷子になったらどうするの?お腹空いたし早くご飯行こう?」

「うん。ごめんね?」

Bはヒールの所為で自分よりも背の高い年上の可愛らしい女性に引き摺られ、不細工達は突然舞い降りた天使を呆然と見送ってしまった。

「あの、助けてくれてありがとうございました。」

「別に。」

店から少し離れた所で女性は突き飛ばす様にBから手を離し、急に素っ気なくなった。
Bは女性の急変に戸惑うばかりだ。
女性は盛大に溜め息を吐き、フリルで盛られた胸の前で腕を組んだ。

「女に守られてる様なか弱い男が、一丁前にこんな夜中に一人でふらふらしてんじゃないわよ。子どもはさっさと家に帰って寝なさい。」

「はあ?」

か弱い辺りで カチン と来たBは口答えしようとしたが、女性に綺麗に装飾された指先でデコピンされて出来なかった。

「警察沙汰になって困るのは貴方でしょう?それに、貴方にはまだ心配して帰りを待ってくれる家族が居るのだから、特に身の振りには気を付けるべきだわ。じゃあね。」

「…。」

複雑な気持ちで女性を見送ったBは、暫く呆然としていたが、我に帰ると頭を掻き毟ってその場で地団駄を踏んだ。

 

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