曖昧な僕ら。2
□転がり堕ちる様に
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Bは中村と夕飯を食べに行った帰り、本屋で雑誌を立ち読みしていた。
今年の夏に発売される新作ゲームの前評判の良さにわくわくが止まらないBの隣、大学生未だ彼女無しの中村は青年誌のグラビア特集に心躍らせていた。
「そういや田中さんって何で抜いてんの?」
「素面で人目も憚らず君は本当に凄い男だよ。」
Bは売り物の本を乱雑に扱う訳にもいかず、戻してから改めて素手で中村の頭を叩いた。
それでめげる中村であれば、一人くらい付き合ってくれる女神の様な女性が居たかも知れない。
「俺は、この真ん中の黒髪ロングFカップがタイプッス。」
「へえ、意外。君はこの茶髪のくるくるした髪に毬栗みたいな目をした子が好きなんだと思ってたよ。」
「いや、そう言う子は絶対俺みたいな男に興味無いんで、想像段階で萎えるんスよねー。」
「きっと黒髪ロングの子も中村君には興味無いよ。」
Bは中村の蹴りをさっと避け、反対に脛を蹴ってやった。
中村は唯一Bに勝っている身長を見せ付ける様に肩を組んで、数人のグラビアアイドルが肩を寄せ合う見開きを見せた。
「こんだけ並んでたら一人くらいタイプがいるっしょ?この右から二番目の元カノに似た娘ッスか?それともまさかの小麦色の肌が魅惑的なお姉様ッスか?」
「うーん、この中だとこの明るい茶髪のストレートの子かな。」
「ほんと、ストレート好きッスよね。この黒髪パーマの子は?ストレートの子より胸でかいッスよ?」
「僕、あんまり大きさに興味無いんだよね。やっぱこう、ほら、あれだよ。」
「あ、美乳派ッスね。佐藤と同じッス。」
「うわー、爽やかイケメン佐藤君のそういう話聞きたく無かったー。」
「はあ?あいつ割と下ネタ言いますよ?」
「あー、あー。」
中村が頁を捲り、Bも覗き込む。
二人は何も言わずとも好みの子を指し合い、子どもの様に笑い合った。
「へえ?田中君そんな子が好みやったんや。ふーん?」
「「!?」」
急に掛けられた声に驚き、Bと中村は雑誌を投げ捨てて抱き合った。
声をかけたCは雑誌を拾い、払ってから開いた。
「全然タイプちゃう恋人おんのに悪い子やなあ。」
「何ーッ!?田中さん、いつの間に!?」
「え!?いや、その、」
中村に揺す振られるBは顔面蒼白だ。
そんなBに、Cは穏やかな笑みを見せる。
「あれ?俺の勘違いやったんかな?」
「あの、」
Bは中村を振り払い、雑誌を棚に戻して去ったCを追い駆けた。
「待って、Cさん。」
「待たへん。」
「じゃあ追い付きます!」
BはCの背中に飛び付き、捕まえた。
「あの、えっと、」
「嫌やったらハッキリ振ったってや。」
「…、」
CはBを背中に貼り付けたまま歩き続ける。
「嫌じゃ、ないけど、…その、」
「嫌じゃない?思わせ振りは嫌やで?」
「そんなつもりじゃ、」
「なくて、少しでも俺の気持ちに応えてくれる気があるなら余所見せんとってや。」
「…すみません。」
Bが少しCに抱き着く力を強くしたので、Cは足を止めてやった。
BはCに抱き着いたまま、離れない。
「すみません。僕、男性に好意を寄せられるのに慣れてなくて、その、嫌な事の方が多いけど、Cさんは嫌じゃなくて、でも、どうしたら良いかわからなくて。」
時間も遅く、幸い辺りに人影は無かったが、Cにそこまで思考している余裕は無かった。
Cは振り返りBを抱き締めて口付けた。
Aがその場に居たら「瓶底眼鏡相手に良くやるよ」と言ったに違いない。
少し驚いて開いたBの唇の隙間から舌を捻じ込んだ。
「本当に嫌じゃない?」
「嫌だったら蹴ってます。」
Bは男らしく口の端を手の甲で拭い、Cを見上げる。
Cはいつもの人懐っこい笑顔をしていない。
「俺んち直ぐそこだけど?」
「エロ同人みたいに都合が良いですね。」
BはCについて行くどころか先に行ってしまうくらい、もう迷いは無かった。