曖昧な僕ら。2

□ポチとタマとなりたい自分
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もう日も暮れかけた夕方。
Bは、ニコチンが切れたAのために、公園のベンチで特売のトイレットペーパーに頬杖を突いた。
一人で出歩けなくなってしまったから、近所のスーパーの特売に行くだけも何をしているのか多忙な同居人に予定を合わせなければいけないから面倒だ。
何より、その度に呼び出される野良猫みたいな同居人の方が苛々している筈だが、煙草一本で落ち着いてくれるのなら、Bにとってこれ以上の事はない。
隣でAは、山頂の澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んだような表情をしている。

「なんだろ。人間終わって来ると通常の人間と感覚が真逆になるのかな。」
「あ?何の話だ?」
「うわ、口に出てた?」
「俺の話だな。」
「ふん、手でお尻を拭きたくなかったら煙草を下ろすんだね。」

Bは煙草を押し付けようとしたAにトイレットペーパーを掲げる。
Aはしばらく豆鉄砲を喰らった様な顔をした後、大人しく引き下がった。
Bが首を傾げてトイレットペーパーの陰から顔を出したので、考えを口にしてやる。

「おまえ、俺に似てきたな。」
「嘘だろ、おい。マジか。どの辺が?」
「口が悪いを通り越して汚ねえ。」
「やだ、何それ。Aの人間性の欠如って感染する類なの?ウィルス系なの?脳味噌のバグなの?Cさんタスケテー!」
「…。」

今度こそ許さねえと煙草を構えたAに対し、Bは目を丸くしてAの後ろを指さした。
Aは目を眇めた。

「ガキじゃねえんだ、その手にゃ乗らねえぞ。」
「いや、本当に。」
「だから、」
「結構大きいおじいちゃんハスキーが、止めようとしてるおじいちゃん引っ張ってめっちゃAの方に来ようとしてる。」
「…は?」

Aが振り返れば、おじいちゃんハスキーの力が強くなり、ついにおじいちゃんはリードを手離した。
おじいちゃんハスキーは早くはないけどしっかりとA目掛けて走り寄り、飛び付いた。
抱き締めるAに鼻で鳴いて懐くおじいちゃんハスキーに、Bの鼻がツンとした。

「ポチ。ポチじゃねえか。」

嘘だろ、おい。
Bは、感動の再会に釣られて漏れそうになった嗚咽を堪えるために顔の前まで持って行った両手で、必死に口を押さえた。
足元で進行する美しく尊い時間に、間違っても水を差してはいけない。
上を向いて笑いの波が去るのを待った。
普通なら何も面白くないのに、金髪無精髭の暴力暴言の権化がシベリアン・ハスキーに付けたのだと思うと、面白過ぎる。
じゃあAみたいな人が付けておかしくない名前や、ポチを飼っていておかしくなさそうな人を想像しかけて、思考が過去にぶっ飛んだ。

 

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