曖昧な僕ら。2

□大天使とベルゼブブのお試し期間
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Bは同僚から差し入れの珈琲を、見もせずに受け取った。
感謝の言葉は無意識だ。
後で本人に聞いても、言ったかどうかは覚えていない。
それでも、Bの評価が下がる事はない。
Bは自分の性癖をよく理解している。
必要以上に特定の人物と接触しないように、常に人気の多い所にいるか、子どもを侍らせているか、とにかく職場では特に男女問わず二人きりになる事は絶対にない。
迷惑をかけるからと、迷惑だからだ。
みんな大好きミチェル先生も、まれに敵意や悪意を抱く輩に嫌がらせをされる事がある。
簡単で効果的、ミチェル先生に侍る子ども達に、いけない事を吹聴するのだ。

「ねえねえ、ミチェル先生はゲイなの?」

Bが住んでいる町が同性婚を認めていても、偏見は異性愛に傾いている。
また、体の構造上の夜の営み方、性病、性欲、絵面など、ゲイとなるとレズよりも周囲の目は厳しい。
異性愛者でも、性癖や性格次第では同性愛者よりもよほど反社会的である事もあるのにだ。

「好き嫌いに性別は関係ねえよ。おまえだって異性だったら誰でも良いわけじゃねえだろ?俺はその範疇がおまえより広いわけだが、おまえに余計な事吹き込んだクソ野郎が入ってねえのは確かだ。」
「じゃあ僕は?」
「おまえはステージが違う。俺はとっくにそのステージをクリアしちまったし、おまえがクリアする頃には俺もまた次のステージにいってる。一生交わる事はねえから安心しな。」

少しがっかりする少年に対し、Bはカルテで苦笑いを隠した。
自分が子ども達によくない影響を与えている事はわかっている。
しかし、自分は異端だからこそ目立ち、子どもの目に物珍しく映るが、その分、圧倒的多数の中で市民権を得るには人並み以上に苦労しなければいけない事を、教えられていると思っている。
それを見てどう育つかは、本人次第だ。
自分の様に育てとは微塵も思っていないが、偏見がない様に育って欲しい。
とりあえず、居候の情報屋に家賃を現物納付して貰う事にした。

 

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