曖昧な僕ら。2

□大天使とベルゼブブのお試し期間
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終業後、Bは着替える間も惜しいと、リビングで仕事をしていたCに詰め寄った。
Cは例のクソ野郎の情報が書かれたメモをBに渡し、頬杖を突いた。

「自業自得だ。どんな振り方したんだ?」
「綺麗な女性にしつこく言い寄ってたから代行してやったんだ。知性も乏しけりゃあんな弛んだ腹した男は俺の好みじゃねえよ。」
「男なら誰でもいいんじゃねえのか?」
「酔い方とその時の気分次第だが、基本的に腹筋が割れてねえ男は論外だ。俺より何かが優れてるなら最高だな。ピロートーク次第で大天使の連絡先が手に入る。」

Bより何かが優れた男なんてたくさんいる。
だから節操無しなのだ。
Bは男の住所を覚え、メモを丸めてゴミ箱に投げ付けた。
Cはパソコンを閉じた。

「晩飯は?」
「あれば食べる。なけりゃ寝る。」
「あるに決まってるだろ。先に風呂入って来い。」
「…あの。」

突然のBの日本語に、Cの表情が和らぐ。

「どしたん?」

柔らかい関西弁に、Bの雰囲気も和らぐ。

「…ありがとう、ございます。」
「うん。」

何故わざわざ今更日本語などと、Cも野暮な事は言わない。
Bの英語はぶっきらぼう過ぎる。
日本語だから、自分の気持ちを伝えられるのだ。
それはCも同じだ。
英語を話す自分はとっつき難い自覚がある。
だから、関西弁を使い、少し演技をするくらいでないと、本心が伝わらない。

「個人情報を買うだけでいいん?」
「どういう事ですか?」

拳で話し合うか、こっち側に落とすか。
悩んでいたBはCの問いに首を傾げる。
Cは怪しい笑みを浮かべている。

「売るだけの情報屋は二流だ。情報を操作できて初めて一流を名乗れる。」
「それはつまり、俺があのクソ野郎を気が済むまで殴った後の話か?」
「相変わらず血の気が多いな。おまえが手を下さなくても社会的に抹殺してやれるって事だ。」

Bは少し斜め上を見て、目を閉じた。
体力お化けのミチェル先生も流石にお疲れだ。

「いくらだ?」
「家賃、高いんだろ?」
「…。」

突然フードを被ったBに、Cは首を傾げた。

「どうした?」
「風呂入って飯。」
「違うだろ。」

Bはより深くフードを被ったが、意味がなかった。
Cの美声は耳に心地よく、小さくても拾ってしまう。

「さっさと風呂入って来い。ベッド代払うから大事な腰に優しい所で寝かせろ。」
「…Aは?」
「仕事。」
「あー、いや、いい歳してFに叱られたくねえから、何もしねえって約束するならお代はいらねえ。」
「ああ、そう。そいつぁ残念。」

ふらふらと風呂に向かうBの背中は、思いっきり心の内を表していて、風呂の扉が閉まった瞬間Cは吹き出した。

 

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