曖昧な僕ら。2

□あの頃の僕らと俺ら
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【あの頃の僕らと俺ら】



病院の敷地の端の木陰で、Bのスマホが震える。
気分転換のため、Bは芝生に寝転んで学術書を読んでいたが、その眉間に皺が寄った。
SNSの着信だ。
点滅するライトが既読を催促している。

「うぜえ。」

ストレスを感じ、胸ポケットを触るが、煙草はない。
病院は厳禁煙だ。
代わりに出て来た飴を咥える。
学術書を胸の上に広げておき、スマホを操作した。

『ごめん。標的とデートする。愛してる。』
「…ったく、ティーンじゃあるめえし。」

Bの目に何の感情もない。
その顔を、一人の看護師が覗き込んだ。

「ミチェル先生。小児科の子ども達が探していましたよ。」
「あー、ガキども主催のお茶会だっけ。」
「そうですよ。ミチェル先生の日本の怪談を楽しみにしているんですから、早く行ってあげて下さい。」
「これ、舐め終わったらな。」
「それ、舐め始めたばかりじゃないですか。」

Bの口から飴を引っこ抜いた看護師は、躊躇なくそれを咥えた。

「何を苛々してるんですか?恋人にデートをキャンセルされました?」
「お互い不規則な仕事してんのにいちいちデートなんて約束しねえよ。めんどくせえ。」
「ミチェル先生ってそんな感じですよね。って、あれ?恋人がいるんですか?いつの間に。」
「最近。顔と体の相性がいいから便利なんだ。」
「相変わらずそっち方面では酷い男ですね。刺されない様に注意して下さいねって、ミチェル先生にはいらない心配でしょうけど。」
「いや、そいつ。俺より強いんだ。」
「その人、人間ですか?」
「人間離れした顔してるから天使かもな。」
「珍しいですね。ミチェル先生が相手の顔だけ褒めるの。」
「それ以外は割と残念だからな。」
「ミチェル先生ならよりどりみどりなのに、なんでわざわざそんな人を恋人にしたんですか?」
「なんか放っておけねえんだよ。」
「そんなに可愛らしい人なんですか?」
「…そうかも。」

Bは学術書を閉じて起き上がり、立ち上がって看護師を見上げた。

「おまえ、いい事言うな。確かに俺の恋人は可愛いのかも。」
「ちょっとその顔やめてください。草むらに押し戻しますよ。」
「やれるもんならやってみろ、モヤシ。」

クイーンは、恋人がいない時も職場の人間に手を出した事はない。
それでも十分期待をもたせる色気たっぷりの笑みを残して、お茶会に急いだ。

 

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