曖昧な僕ら。2

□あの頃の僕らと俺ら
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ジョンと名乗る男は、ブロンドの女性とディナーを楽しんでいた。
女性はジェーンといい、公的機関で窓口業務を担当している。
上昇志向が強く、相手の男に求めるのは顔・高身長・高収入だ。
そこに人懐っこさとセンスの良さが合わされば、最高だ。
すっかりジェーンはジョンに惚れている。
ジョンはブルネットのイケメンで、ジャケットと銀縁の眼鏡が知的な印象のとおり、大手不動産業者に勤めている。
悩みは、迷惑な住民への対応や家賃の滞納、横柄な家主からの無茶に振り回されている事だ。
その話し方は面白可笑しく、愚痴という感じは一切なく、ディナーの会話を盛り上げてくれる。
ジェーンは少しでもジョンの助けになりたく、職務上知り得た彼らの職種や収入、窓口で対応した際の印象を口走ってしまう事も多々あった。
それどころか、彼女の方からジョンの悩みを聞き出すようにもなった。
ディナーの後はホテルでジェーン好みのスマートなセックスを楽しみ、ピロートークで以前話していた面白可笑しい困った客の、興味本位で検索して得た個人情報を話した。
今夜も楽しいデートは終わり、ジェーンを家まで送ったジョンは、次の角で金髪になり、名前もジェームスに変わった。
深夜の街角で、一人たたずむ小麦色の肌が魅力的な女性に片手を上げる。
彼女はメアリー、コンビニ店員であり、この辺りの区画を担当するマネージャーだ。
ジェームスは待たせた事に対する謝罪もなく、メアリーの肩を抱いてパブに入った。
メアリーは微笑み、本屋のロゴが書かれた紙袋をジェームスに差し出した。
受け取ったジェームスは開封し、最近話題の本と一緒に一枚のCD−Rを確認した。
メアリーの本業は情報屋だ。
深夜も営業しているコンビニに税金を払いに来る客は少なくない。
番号制度が浸透し、身分証の提示があれば公的な証明書の発行だってできる。
役所や銀行と違い、自給8ドルで雇われている者の手に個人情報が手渡されるのだ。
扱いは目に見えている。
役所や銀行は、個人情報が映る様な位置に防犯カメラは設置されていないが、コンビニは強盗や職員の不正を見張るため、レジ側からも撮影されており、その映像は記録され、バックヤードでいつでも見る事ができる。
少しでも機械に詳しければ、データを抜く事なんて容易い。
二人は酒を楽しみ、報酬の他にメアリーが要求する快楽を与え、別れた。
Cが帰宅したのは明け方だ。
人の気配に敏い同居人はいない。
仕事はない筈だから、女の所に遊びにでも行っているのだろう。
寝室から微かな寝息が聞こえる。
そっと覗き込めば、カーテンの隙間から差し込んだ登り始めた朝日が、Bの寝顔をうっすらと照らしていた。

「ただいま。」

寝ているところを起こすと天使が妖怪に変貌する事は、日本で経験済みだ。
そっと枕元に手を付き、屈んで無防備な唇にキスをした。

「愛してる。」

短い前髪を撫で上げて、額にもキスをした。
体力お化けは最近年齢を感じる事もあるが、まだまだ現役だ。
愛しのBが目を覚ました時に、美味しい朝食と一緒に迎えられるよう、袖をまくった。
まずは空のビール缶が散乱した台所の片付けからだ。

 

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