曖昧な僕ら。2

□藪を突くとロクな事がない
1ページ/4ページ




【藪を突くとロクな事がない】



Aは家主のいない部屋でのんびりと過ごしていた。

日本にいた時は酒瓶を片手に煙草の煙が消えるのを眺めて過ごした。
酒や煙草がなくても生きていけるようになった今は、Bの部屋の本を斜め読みしている。

元々頭は悪くない。
ただ、使おうとはしないし、その意思がない。

世の中、あまり深く考えずにその時の気分で生きていた方が楽だと、幼少時に気がついた。
過去も未来もない。
辛い事も今だけだ。
次の今に引きずってもいい事はないし、次の辛い事を考えて縮こまって生きる今も辛いだけだ。
次は辛いかもしれないが知ったこっちゃない、今が楽しければそれでいい。

Aが生きてきた世界で今を楽しく生きるには、頭よりも腕っ節を鍛えた方がよかった。
勉強すれば将来が楽になるなんてのは、常識という偏見を信仰する大人が子どもを騙す時に使う常套句だ。
苦痛に耐えて待っている人生は社会の歯車の一つで、自分がその中で金持ちになれる可能性は著しく低く、そんな将来性が不確かな未来よりも、目が悪くなる可能性の方が高いし、それならばやはり今が楽しい方がよかった。

思い出したくもないどころか今では思い出す発想すらない、人間だからこそ落魄れれば野生動物よりも低い知能指数というよりも最早だたのクズだった両親による、英才教育の賜物だ。

つまり、教育委員会が目を背けたくなるようなゲームをダウンロードし過ぎた結果、せっかくのおツムも動作がカクついていた。
クリアまたはカンストしたゲームを落とし、新しいゲームが配信されない今、ようやく本来の働きを取り戻しつつある。

「ふうん。」

AもBもお互いに歳をとり、会話が穏便に成り立つようになった。
AはBがいる時は退屈をしないので本を読む事はないが、Bがその姿を見たら見直すはずだ。
Aは黙って身だしなみを整えていれば、顔の造形はCに劣らない。
それどころか、Cよりも男らしいAの顔立ちを好む人間の方が多いかもしれない。
おそらくBは後者だ。
その事実を当事者達はもちろん、すでに脳筋として完成したAしか見ていない自称インテリCも、気づいていない。

そんな、野生動物が社会性を取り戻そうとしている時に、テーブルの上が騒ぎ出した。
Bが忘れて行ったスマホだ。
Bもいい大人だし一日くらいなくても困らないだろうと、Aはそのままにしておいたが、あまりにしつこく着信を主張するので、急用かと思い手に取ったが違った。

「なんだ、テメエか。」

Aは舌打ちをし、Bの本を閉じた。

 

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ