曖昧な僕ら。2

□藪を突くとロクな事がない
2ページ/4ページ


白衣の裾が翻る。
Bは日本人の平均的な身長ではあるが、欧米人に比べると小柄で貧相だ。
Sサイズの白衣でも大きい。
女医にレディースのLサイズを勧められたが、それはなんか悔しいので辞退した。
ネットで日本人サイズの白衣を買えばいいとは思うのだが、三十路になった今でもネットショッピングは苦手だ。
大きめの白衣に加え、髪も忙しくて染められず、黒い面積が広がり、持ち前の幼さが際立っている。

「ミチェル先生って今年で何歳でしたっけ?」

「次に同じ事を聞いたら盛るぞ。」

「それ、医療機関従事者が一番言っちゃいけませんって。」

いつも回診について来る看護師は、アジア系だが大陸育ちの長身で、Bは羨ましい。
院内ではもちろん禁煙で、棒の飴を咥えて先を上下させた。

Bは大病院に勤務できるくらいには優秀だ。
しかし、診察では主に父母と話す事になるが、幼い容姿に不安を抱かれる事もある。
話す内容よりも人は見た目で9割が判断され、さらに生まれや育ちが圏外の異国となれば、聞く耳すら持ってくれなくなる。
自分の事ならまだしも、可愛い我が子の事となれば繊細にも過敏にもなる。

Bの仕事はまず、患者を安心させる事だ。
だから金髪にし、カラーコンタクトを入れ、見た目の日本人らしさを薄めている。
決して、口を酸っぱくして決して、Bの今のスタイルはAをリスペクトした結果ではない。

「次の休みはいつだ?」

「今日の遅番から途切れることなくしばらく夜勤なので、明けに染めに行ったらどうです?」

「絶対寝るわ。」

「あはは!そういえば学生の頃一度、カット中にカクンってなって切られ過ぎて、後頭部だけ刈り上げていましたよね。」

「あー、あの髪形楽でいいかもな。」

「過労死寸前の研修医でもあるまいし、いい加減伸ばさないんですか?」

「邪魔だし、伸びた時に根元の色が悪目立ちするだろ。」

「わざわざ染めなくてもいいと思いますけど。」

「もう金髪の自分に見慣れちまったから、黒髪の自分に違和感っつうか、なんか萎える。」

「そうですか?」

午前の回診が終わり、昼休憩になったところで気づいた。
時間を確認しようとポケットに手を突っ込んだが、飴しか入っていない。

「あ。」

「またですか?」

Bが何も言わなくても、学生の頃からの付き合いの優秀な看護師は何でもお見通しだ。
Bにとってスマホはなくてもほぼほぼ困らないが、勤務中に外出する時だけは困るのだ。

「昼食で外に出るならご一緒しますよ。」

「悪いな。」

Bと看護師が白衣を脱いで上着を羽織り、正面玄関から出ようとした時だった。

 

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ