曖昧な僕ら。2
□藪を突くとロクな事がない
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白衣の裾が翻る。
Bは日本人の平均的な身長ではあるが、欧米人に比べると小柄で貧相だ。
Sサイズの白衣でも大きい。
女医にレディースのLサイズを勧められたが、それはなんか悔しいので辞退した。
ネットで日本人サイズの白衣を買えばいいとは思うのだが、三十路になった今でもネットショッピングは苦手だ。
大きめの白衣に加え、髪も忙しくて染められず、黒い面積が広がり、持ち前の幼さが際立っている。
「ミチェル先生って今年で何歳でしたっけ?」
「次に同じ事を聞いたら盛るぞ。」
「それ、医療機関従事者が一番言っちゃいけませんって。」
いつも回診について来る看護師は、アジア系だが大陸育ちの長身で、Bは羨ましい。
院内ではもちろん禁煙で、棒の飴を咥えて先を上下させた。
Bは大病院に勤務できるくらいには優秀だ。
しかし、診察では主に父母と話す事になるが、幼い容姿に不安を抱かれる事もある。
話す内容よりも人は見た目で9割が判断され、さらに生まれや育ちが圏外の異国となれば、聞く耳すら持ってくれなくなる。
自分の事ならまだしも、可愛い我が子の事となれば繊細にも過敏にもなる。
Bの仕事はまず、患者を安心させる事だ。
だから金髪にし、カラーコンタクトを入れ、見た目の日本人らしさを薄めている。
決して、口を酸っぱくして決して、Bの今のスタイルはAをリスペクトした結果ではない。
「次の休みはいつだ?」
「今日の遅番から途切れることなくしばらく夜勤なので、明けに染めに行ったらどうです?」
「絶対寝るわ。」
「あはは!そういえば学生の頃一度、カット中にカクンってなって切られ過ぎて、後頭部だけ刈り上げていましたよね。」
「あー、あの髪形楽でいいかもな。」
「過労死寸前の研修医でもあるまいし、いい加減伸ばさないんですか?」
「邪魔だし、伸びた時に根元の色が悪目立ちするだろ。」
「わざわざ染めなくてもいいと思いますけど。」
「もう金髪の自分に見慣れちまったから、黒髪の自分に違和感っつうか、なんか萎える。」
「そうですか?」
午前の回診が終わり、昼休憩になったところで気づいた。
時間を確認しようとポケットに手を突っ込んだが、飴しか入っていない。
「あ。」
「またですか?」
Bが何も言わなくても、学生の頃からの付き合いの優秀な看護師は何でもお見通しだ。
Bにとってスマホはなくてもほぼほぼ困らないが、勤務中に外出する時だけは困るのだ。
「昼食で外に出るならご一緒しますよ。」
「悪いな。」
Bと看護師が白衣を脱いで上着を羽織り、正面玄関から出ようとした時だった。