曖昧な僕ら。2

□チームBossomeの高齢化
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【チームBossomeの高齢化】



Cは軍を“抜けて”からしばらく、人間不信になっていたので、上司の顔色を伺う特技を磨いてしまった。
今朝のFは、少々浮かない。
それに気がつけたのは、Cだけだ。
今朝と言っても、集合時間は深夜、まだ気合の入った酒場が空いている時間だ。
各々、一か所に集まる事はなく、もちろん変装し、それぞれ好きな店で好きな酒を一杯飲み、時間になったら店を出て、迎えに来た大型車に乗りこんだ。
普段、恵麻には誰も頭が上がらないが、戦闘面で一番劣る彼女は助手席だ。
いつもはキャリアウーマンのような服装だが、TシャツにGパンというラフな服装も、スタイルが良過ぎて様になる。
次席のCは恵麻の後ろではなく後部座席の真ん中に、右にはさらに次席のA、左には主席のFが座っている。
単純な格闘だけで順位付けはされない。
Fはそれぞれの部門で一番になれる事はなくても、次席、または平均以上の成績がある。
統括すると主席、次席はFに及ばずとも器用で正規の訓練を受けたC、そして野性児が続く。
それなのに、Cが後部座席の末席に座っているのは、Aの体が大きくて邪魔だからだ。
一番後ろの席ではボスが贅沢に座席を使い、運転は下っ端のEが勤めている。
舗装が乱れた道で、車体が少し跳ねる。

「そんなに怒んなや。」

それだけでFの機嫌が悪くなる。
Cに指摘されたFは、バックミラー越しにEを睨むのをやめない。

「作戦によっては常に上等な車で移動ができるとは限らない。あの程度の穴で跳ねさせているようじゃ納期が1年先でも間に合わない。」
「それ、砂漠を徒歩って事?今日日それくらいで車は壊れへんて。」
「だが、千隼。おまえはできるだろう?」
「そりゃあ、天才やからな。」
「アールはおまえの後釜だ。今直ぐにとは言わない。能力をおまえのレベルまで引き上げる、それがおまえの仕事だ。」
「わかってますがな。でも、先に引退しそうな風雅兄さんの後釜探した方がいいんとちゃう?」
「俺の後釜はおまえだ、千隼。」

車内の誰もがそんな雰囲気を出さないが、驚いている。
冷静沈着なFの後釜が、脳味噌筋肉のCに務まるのだろうか。
それよりも、Cには気になる事がある。

「後釜探しは死期が近い順や。Aの阿呆の後釜はようけおるとして、ボスの後釜は風雅兄さんかいな?」
「いや、ボスが死んだら俺達は解散だ。ボスは一応、サラリーマンだ。経費で購入した備品は組織に返還する義務があるだろうが、使い込んだ備品が再利用に値しなければ処分だ。」
「えー、今更普通の仕事なんて退屈や。そうなったら傭兵でもやろかな。」

そこで「こいつだめだ」とみなが目を回した。
あんなに愛するBのために堅気に戻る発想は、Cにはないようだ。
それこそ今更なのだが、軽口にすらできないようでは終わっている。
恋愛大好き恵麻は、高いが小さくまとまっている鼻で溜め息を吐いた。

「ところで、助手席の後釜はまだ探してくれないの?」

振り返りもしない恵麻に答えたのはボスだ。
汚らしく伸ばしっぱなしの頭を掻き回す。

「おまえの後釜はいない。おまえはおまえだからそこに座っている。誰も変わりは務まらない。」

恵麻はどんなに化粧をがんばっても、身だしなみを整えたボスに似ている。
Aでさえ、いや、脳味噌筋肉のAだからこそか、指摘された時の恵麻の、嫌悪を露わに怒り狂うその姿は、百年の恋も覚める酷いものだった。

「嘗めてんの?」

今度は振り返った恵麻の、アーモンド形の大きな瞳がボスを睨む。
ボスは寝そべったまま、手をひらひらと振った。

「褒めてんの。こんな癖が強い男所帯で紅一点、よくやってくれてるよ。」
「それもそうね。自分でもそう思うわ。あ、アール。今の交差点は右折した方が早かったわよ。地図だけじゃなく、時間帯別の交通量と路上駐車の質と量も把握しておきなさいね。」
「…さーせん。」

酔っ払いを待ち構えたタクシーの路上駐車に、酔っ払いを乗せたタクシーの交通量、酔っ払いだけでなくタクシー運転手同士のくだらない喧嘩に阻まれながら、一行は目的地に着いた。

 

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