曖昧な僕ら。2

□チームBossomeの高齢化
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有刺鉄線と監視カメラの装飾が仰々しい壁の向こう、いくつものセキュリティを超え、“屋内の荒野”に整列した。
軍の訓練施設だ。
崩れかけた街を再現している。
A達は黒服にアルミ繊維の目出し帽を被り、ゴーグルをかけている。

「Aだ。」
「C。」
「F。」
「E。」
「G。」

最後は声で女だとわかる。
コードAは、阿呆の頭文字でもあるが、Aの仕事上の名前である玲の頭文字でもある。
Cは千隼、Fは風雅、EはEarlだが、恵麻だけは胸の大きさから付けられた。
その、見たらわかる恵麻の豊かな胸も、今は装備に押しつぶされ、相手の精鋭部隊はコードの由来を邪推する事もできない。
チームBossome(ボスとその他)の体付きも中々だが、訓練を依頼して来た相手の精鋭部隊は、雰囲気からしてシステム的なお堅さがあった。
精鋭部隊は赤外線遮断マスクをしているが、目元は涼しげでよほど歯並びが悪くなければイケメン揃いだ。
ヘッドギアの下、耳まで覆うインナーキャップのせいで髪色はわからないが、おそらく殆どが欧米人の中、一人だけ小柄だった。
体格は恵麻よりも少しよいくらいだろうか。
目元はゴーグルに覆われて伺えないが、もしその兵士が女性だとしても、手加減をするような紳士は、チームBossomeにはいない。

唯一上下黒の私服のままのボスは、相手の指揮官と今日の訓練について詳細を詰めている。
この精鋭部隊とは日本に行く前に何度か訓練をしていて、それなりに会話もした事があるのだが、それは訓練の後だ。
訓練前、精鋭部隊は自分達の指揮官の談笑が終わるまで一言も話さず、微動だにせず、状況が開始したら手信号だけで意思を疎通させ、持ち場に着く。
Aは尻をかき始めたが分厚い装備のせいでまったく意味がないし、Cは欠伸をもらし、Gはヨガを始めるし、Eはきょろきょろしている。
Fだけが唯一大人しく、姿勢を崩さない。
これだからすぐに個人を特定され、訓練は憂鬱なのだ。
指揮官達がそれぞれの部下に、チーム名の書かれた細い白色のリボンを4本ずつ渡す。
Fはマスクの下で頬を引き攣らせ、受け取った。
リボンは固結び厳禁、両手足首にくくりつけ、それを全部取られたら死を意味する。
相手のチームを全員殺したら勝ちだ。
また、一番リボンを多く取った者がMVPとして、指揮官達のポケットマネーから賞金が出る。
そうでもしなければ、A達がやる気を出さないからだ。
さらに、各々の陣地の奥で戦局を見据える指揮官の首には、太い赤色のリボンが1本巻かれている。
それにはリボン3本分の価値がある。

「武器は己の体のみ。時間無制限だが、こそこそ逃げ回るのは兵士の恥だと思え。以上。」

ボスは楽しそうに自分の首に似合わないちょうちょ結びを施し、何も言わずに陣地に向かう。
Fは精鋭部隊の癖を少しでも感覚に取り込もうと見送っていて、早速違和を覚えた。
いつもは見えない場所で素早く行われる手信号が、今回は素人でもわかるようなものだった。
精鋭部隊の一人が、小柄な兵士に「あっちへ行くぞ」と指さしている。
小柄な兵士は一般人のように頷いた。

「(将来有望な士官学校の生徒だろうか?)」

そう思わせておいて、実は歴戦の猛者かもしれない。
今回は心理戦の訓練でもするのだろうか。
だとすると、脳味噌筋肉の代名詞チームBossomeでは役者不足だ、あり得ない。
頭と銃を使うもっと実戦的な訓練ならば、負けはしないのに。
純粋な格闘の実力でGを下回るFは、今回も袋叩きに遭うのだろうかと、Cにわかる程度に肩を落とした。

 

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