Milky load.

□Y dawn
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りりりりん…りりりりん…

部屋の主の趣向により、本部で愛用されている黒電話ではなく、レトロで上品な装飾の電話が涼やかに着信を告げる。
しかし、それが怒声の様に聞こえる部屋の主は朝っぱらから何事だと顔を顰めた。
昨日の分隊のやんちゃは昨日の内に怒られた。
まさか不真面目な彼等がこんな早朝から問題を起こすとは考えられないが、嫌がらせの為ならやりかねないし、それならば効果てき面だ。
あまり勿体ぶらせて長引かせると着信が途切れた途端、第四部隊ごと消されかねない。
三コール目が鳴り終わる前に受話機を上げた。

「もしも、」

『遅え。』

「こんな朝早くに誰かと思いましたので。」

『改めて名乗ってやろうか?』

「結構です、第一部隊隊長殿。」

第一部隊隊長を怒らせるとこの世から消される、というのはただの噂ではない。
混戦に紛れて一つの部隊が消えたのは彼の逆鱗に触れたからだというのは周知の事実だ。
それでもまだ、この国で一番の部隊として燦然と君臨していられるのは、この男の存在のおかげだ。

「それで?まさか朝の挨拶の為に掛けて来た訳ではないでしょう。何の用ですか?」

そんな男に物怖じしないこの男も大概の猛者だ。
子どもを軍の作戦本部で遊ばせていてもお叱りの電話だけで済むのは、大方この男のおかげだ。
皆、命は惜しい。

『ラドクリフ中尉、テメエは今回の任務で何人死なせた?』

「まだ報告を受けていないので正確な数字はわかりませんが、僕は不本意ながら国の意向に忠実です。何故、怒られなければならないのでしょう?」

『はっ!ゴミ共に嘗められて恥ずかしいとも思わねえとは、死神ともあろう者が落魄れるにも程がある。遊ばせる前に報告させるんだな。』

「まさかとは思いますがそのゴミに僕の、」

ガチャン。
叩き付けられ、電話は切れた。
恐らく壊れたであろう相手の電話の冥福を、ラドクリフは祈った。
第一部隊。
一番大きく、一番誇り高く、一番強い。
戦争では必ず武功をあげ、国が誇る最強の部隊。
第一部隊が光なら、第四部隊は闇だ。
本人の容姿からは到底伝わって来ないが、正義感に強く真面目な隊長を慕う部隊の統率は完璧に過ぎる。
「前倣え」すら危うい不良少年の集まりはさぞ目障りだろう。
ラドクリフも、本音を言えば関わり合いになりたくないどころか視界にすら入れたくない類の生き物だ。

コンコン、コン。

控え目なノックが、ラドクリフの思考をやんわりと遮った。
それはきちんと教育を受けた者によるもので、来訪者が誰か直ぐにわかった。
トイレノックではなく、気忙しく鳴らすのではなく、どんなときも品を崩さない貴族の教養は貴族出身のアルヴァートにもあって然るべきだが、元より柄の悪い彼のノックは荒々しい。
だから、ここでそうするのは一人だけ。
ラドクリフの気が少しだけ晴れた。

 

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