Milky load.

□Z beam
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数分前、人外としての本性を見せたユージーンに対し、第四部隊分隊は直近の危険人物である可能性が非常に高いと判断し、簡易事情聴取を行う事になった。
場所は当人の部屋だ。
ソファにベッドに、とにかく尻に優しい家具が人数分揃っている。
ラビはソファに、シメオンは椅子に、レオはベッドの端に。
リーダーはリーダーらしくベッドの真ん中に座ろうとして、それはジーンに押し出されて出来なかった。
何をするんだと振り返るまでも無く、ジーンの膝の上に座らされ、ジーンを除く分隊全員が突っ込んだ。

「「「待て、おかしいだろ。」」」

「何もしてねえだろ?」

ジーンは膝に乗せたリーダーをぬいぐるみか何かの様に抱き締め、頭に頬ずる。
幸せそうな顔は長い髪に隠れて見えないが、ご機嫌なのは誰の目にも明らかだ。
ラビとリーダーは機嫌を損ねると話が進まなくなりそうなので黙ったが、シメオンとレオは大事な元主が危険人物にホールドされたこの状況を静観出来ない。

「おまえ、今さっき自分が何やったかわかってんのか?」

レオの問いに、ジーンは鼻を鳴らす。

「さっきのは先輩が悪い。俺が腹減って寝惚けてる時にミルキーに怪我させるからだろ。」

「誰が悪いって?」

ラビの額に青筋が浮かんだ時、ジーンはリーダーの頭の上に顎を置き、大きく口を開けた。

「俺はもうミルキーの細首に噛み付いて啜りたくても出来ねえっての。」

リーダーには見えないが、ジーンの犬歯は不自然な程平らだった。

「餌が欲しけりゃ敵兵殺して啜るか、転がってる死体から啜れってさ。」

歯をしまったジーンは、またリーダーの頭に頬ずる。

「大昔は違ったみてえだけど、王族以外は大分血が混ざって薄まっちまって、全員が全員そんなにデカい魔法も使えねえ。一般人はたまに動物の生き血を飲めばそれだけで充分生きていける。俺んちは毎日献血用の血を飲むか、誓いを立てた眷族のを飲む。…俺は前者でそんなに頻繁に飲まなくても貯蓄があるし、兄貴は牙も眷族もそのままで王家に伝承される魔力は健在だ。」

リーダーはジーンを見上げ、ジーンは顔を離してリーダーを見下ろした。

「でも辛いんだろ?」

「魔法たくさん使った翌朝はな。」

「俺の血飲めば?怪我だって直ぐ治るし、血だって直ぐ出来る。」

「…。」

ジーンは微笑んだまま、無言だ。
シメオンとレオは考え直す様に訴えひたすら首を横に振り、ラビはジーンを代弁する。

「吸血鬼の伝説知らねえのか?血を吸われた人間も吸血鬼になるんだぜ?」

「いや、ならねえけど。」

ジーンの否定にラビの眉間に皺が増える。

「じゃあなんだよ。」

「俺は自分が生きる為にミルキーを餌にしたくねえの。」

ジーンはリーダーを抱き直し、リーダーの顔に頬を押し付けた。

「俺の為に痛い思いも辛い思いもして欲しくねえの。」

「ナイフでちょっと切る位なら平気だ。」

「この国の為にミルキーを犠牲にしてまで力を使う気は微塵もねえよ。」

「じゃあ他の人のを飲めば?」

「ミルキーの味を占めちまったらもう他の血なんて飲めねえし。」

「ああ言えばこう言うなあ。」

「王族はグルメなんだよ。」

「俺はジーンを心配して言ってるんだ。」

「普通の人間じゃねえし、そんな簡単に死なねえよ。」

リーダーはジーンを振り払う様に振り返り、小さな頬を膨らませた。

「俺もジーンに痛い思いも辛い思いもして欲しく無いの!」

「…。」

固まるジーンの向かい、ラビも目を丸くしていた。

 

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