Milky load.
□[ abracadabra
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「俺、先に行くから。」
泣き止んだリーダーは脱兎の如くジーンの部屋を出て行った。
シメオンとレオも直ぐに追い駆け、ジーンは少し後に出た。
その背に、ラビは無言で続く。
「安心しろよ、先輩。俺は先輩も嫌いじゃねえぜ?」
無言のままのラビにジーンは続ける。
「先輩も大事にしてるあの子を傷付けたりはしない。約束する。」
隊舎を出て、少し歩けば中央棟。
建物はそれぞれ別れているが、その区域はそう呼ばれている。
中央棟には食堂と資料室と大会議場、士官の私室と各隊の隊長室兼非常時の詰め所がある。
そのどれもが主だったどの隊舎からも出入りしやすい様、入口が設けられているが、第四部隊用の入り口は無い。
非常口から建物に入り、食材や纏められたゴミが置かれた薄暗く狭い廊下を抜け、リーダー達に遅れて食堂に着いたジーンは、盆も持たずに端の方の席に直行した。
「食べないと大きくなれませんよ?」
「食べたら死んじゃう。」
「いや、死にませんて。俺、ピンピンしてるし。」
食べながらも目を離さないシメオン、とっくに食べ終わったレオに挟まれ、リーダーは殆ど口を付けていない昼食を前に、フォークを投げ出していた。
「じゃあレオにあげるよ。俺より大きいし、たくさん要るだろ?」
「兄貴が言った通り、俺より小さいリーダーが食べて大きくなって下さい。」
「チビじゃない!」
「レオ、言葉を選べ。…ああ、ほら。」
すっかり機嫌を損ねてしまったリーダーは、硬く口を閉ざしてしまった。
レオは青褪め、リーダーを挟んで隣の隣の兄の冷たい表情に震えた。
「悪気があった訳じゃ、」
「あったら大問題だ。」
「へえ?ミルキーって好き嫌い多いんだな。」
そんなリーダーの殻を破ったのはジーンだ。
リーダーを後ろから抱き締め、覗き込んだ。
「小っちゃいまんまでも可愛いけど、大きくなれねえとヤだろ?」
「別に小っちゃくないし、食べたって大きくなるとは限らないし、不味いのはもっと嫌。」
「じゃあ、魔法をかけてやるよ。」
「え?」
リーダーは上を向き、見下ろすジーンの笑顔を見上げる。
ジーンはリーダーの知らない言葉を紡ぎ、立てた人差し指でリーダーの盆を指した。
一瞬、影が揺らめき、それだけだ。
見た目に変化はない。
半信半疑の三人が覗き込み、兄弟は恐る恐るリーダーに頷いて見せる。
リーダーはフォークを取り、嫌いな人参を刺した。
小さく齧り、青い目を真ん丸に開いた。