Milky load.

□\ crown
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三階建てのビルの最上階。
スコープ越しに見える瓦礫に隠れる敵兵を一人ずつ確かに減らしていく。
少し反動で手が痺れるけど、一日中撃つわけではないので支障はない。
狙撃は結構得意で嫌いで無いリーダーは、それでも不機嫌だ。
黒い隊服を隠すために被った市街地用迷彩マントが暑い。
それと同じくらい、状況は良くない。
反政府組織の本拠地と言われている所から遠く離れたこの辺りは、リーダーの記憶では確か最近制圧した場所だ。
その後第五部隊が警戒網を敷いていた筈だが、その網目を掻い潜って来たにしては数が多い。
捨て身の急襲に守るだけが仕事の普通の部隊が対応出来る訳がない。
本来なら特殊部隊である第四部隊の本隊の仕事だが、彼らは今別件で居ない。
あまりにもタイミングの良い襲撃に、考えるのが苦手なリーダーでも状況が読める。

「(アルヴァさん達が派遣された所は囮か。)」

自分が属する軍の死体が通りに多く見え始めた。

「(どうせ後でおまえらが死ねば良かったのにとか言われるんだろうな。弾避け仕事しろ、とか。)」

言われる前からうんざりしながら、身体は黙々と敵を狙い、撃った。
それでも、いつもよりもうんと精神的には楽だった。
確かに状況は良く無く眉間から皺が取れないが、まだ本部に近くて終われば直ぐに帰られるだけ今回はましだ。
昔派遣された場所は本部から遠く帰還もままならず、作戦終了後も落ち着く暇もなく、本部に着く前に次の作戦へと赴く羽目になった。
勿論弾も人も、補充は追い付かないままだった。
そんな状態で、地形を頭に叩き込んだだけの自分達とは違い、地の利を身体にしみ込ませた敵を相手に立ち向かわなければいけない。
前に進めば進む程死が纏わり付き、だからと言って止まっていれば良い的だ。
大半の分隊の兵士がそうやって死んで逝く。
戦争は空になる弾よりも精神を消費する。
それは今も、どんどん消費されている。
この辺りを制圧した頃はリーダーはまだリーダーでなく、まだ分隊もなく、大人に囲まれアルヴァに引っ付いていたから、怖かったけれど不安は無かった。
今はリーダーで、怖くはないが不安で一杯だった。
自分一人で事が済むなら不安は無い。
さっさと終わらせないと元気が有り余っている不安達が追い付いて来る。
リーダーは頭を振って、戦闘に集中した。

「それにしてもゲリラって凄いな。俺は自分の意思では出来ないな。」

「…無駄口を叩くな。」

溜め息交じりに超小声で言ったつもりだったが、開きっぱなしの無線に拾われ、耳敏い男に聞き咎められた。
リーダーは小さな唇を尖らせた。

「ごめんなさい。第五部隊…さん。」

「伍長だ。階級章くらいわかるようになれ。ああ、疫病神共には階級すら与えられないんだったな。」

「はい。」

皮肉っぽい言い方だったが、いちいち突っかかってたら疲れるだけだ。
散々突っかかって無駄だと身体で覚えたリーダーは、素直に応じた。
ふと、空気の変化というより雰囲気に違和を感じ、リーダーは顔を上げた。

 

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