Milky load.

□]Vconceal
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早朝。
不穏な気配に飛び起きたリーダーは、気を巡らせるが特に身の危険はないと判断し、身体の力を抜いた。
昨日、散々暴行を受けたのにジーンのおかげで痛みは無い。
昨晩、回復魔法を使う為に多めに血を飲んだジーンの目覚めも良い。
ジーンは欠伸を漏らしながらリーダーを抱き締めた。

「どした?」

「何か、胸騒ぎ。」

「昨日の興奮が残ってんじゃねえの?」

暴行され、気が立ってなかなか眠れないリーダーを、懇切丁寧に寝かせたジーンにリーダーは首を振る。

「これは殺気だ。昨日のヘタレ野郎共がこの猟犬様の気に留められる様な殺気を出せる訳が無い。」

「俺は何も感じなかったけど?」

「俺は魔法の気配を感じられない代わりに、ヒトの悪意や害意、殺気に敏感になれる様な訓練を受けた。一緒にしないでよ。」

リーダーはジーンの手から擦り抜けてベッドを降り、ブーツの紐をキツく結んだ。
細い腰に銃とナイフを巻き付けて部屋を出れば、同じく感覚の鋭いシメオンと会った。

「坊ちゃま、ご無事で何よりです。」

「誰の事?」

リーダーが軽く睨んでやればシメオンは途端に慌てふためいた。

「それよりも何だろう、嫌な予感がする。」

「リーダーもですか?」

「シメオンも言うなら俺の気の所為じゃないな。」

リーダーは目的も無く宿舎の玄関に向かって歩き、途中で命だけは持って帰れた第四部隊分隊雑用班の洗濯当番達と擦れ違った。
リーダーを睨む少年達が多い中、幾人かはリーダーに軽く頭を下げた。
その内の足を引き摺って歩く一人がリーダーに手信号を送る。
声が出ないのだ。
シメオンはその少年の喉に裂傷の痕があるのを見た。

「それ、本当?」

リーダーの問いに少年は頷いて答えた。
リーダーの顔色が見る見る内に青くなる。

「早く、見つけないと。」

リーダーが走り出すと、欠伸混じりについて来ていたジーンとシメオンも続いた。
早朝自己鍛錬から帰って来たラビも合流し、分隊はリーダーを先頭に朝っぱらから全力で走る。

「挨拶よりも先に一体何事だ?」

「さあ?」

ラビの問いにジーンは首を傾げ、リーダーは振り返った。

「トールだ。」

「!」

ラビの顔色の変化にジーンはまた首を傾げる。

「トールって、昨日の隻眼のイケメンか?あいつがどうしたんだ?」

「あいつは第四部隊分隊の元問題児なんだよ。俺らはあいつの尻拭いに苦労させられたんだ。」

「でも今は第九部隊医療班で白衣の天使やってんだろ?」

「あいつを隻眼にしたのは目の前の、おまえの愛しのドチビだ。」

「は?」

「じゃねえと止めらんなかったからな。隻眼は良い枷になった。」

感覚を研ぎ澄ましていたリーダーが方向を変え、植木を飛び越える。
その方向には演習場があるが、正規ルートではなく、かなり外れの方に着く事になる。
シメオンも迷わず続き、ラビとジーンも続いた。

「トールは魔法が使えなくても強かった。正真正銘の阿呆で、俺は割と嫌いじゃなかった。それはあのチビも同じだが、トールはあのチビを本当に気に入ってる。だから言う事も聞いたし、真面目に闘い、あのチビを守った。片目を潰されても、恨みもせずに自分がした事を理解して謝ってた。」

「聞けば聞く程、トールって不良なのか?」

「そりゃおまえ、何が不良って決めるのはこの国の基準だ。良い子でいるつもりなのにいつの間にか不良のレッテルを貼られていた俺達には理解不能に決まってんじゃねえか。」

「…マジでクソだな、この国。」

「同感。だから俺達は第四部隊に配属されてる。」

ジーンはリーダーの背にナイフを投げ、その動きを止めた。
加減されたそれを振り返って受け止めたリーダーはジーンを睨むが、殴りかかろうとするシメオンを視線だけで止めた。

「何?」

ジーンは答えもせず、リーダーからナイフを取り戻した。

「待ち合わせに遅れそうなんだろ?」

そのナイフでリーダーの首を浅く裂き、自分で作った傷口に吸い付いた。
ジーンの影が大きく揺らめき、平面だったそれがどろどろの液体の様に浮き上がり、二人を包み込んだ。
シメオンが手を伸ばすが遅い。
影が平面に戻った時には二人の姿はもう無かった。

 

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