Milky load.

□]Yangling
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「シルヴァ!」

瓦礫が散乱する道で座り込む小さな白い背に、巻きつく影の様な黒い隊服が不安を煽る。
いつもならアルヴァートが呼ぶ前に嬉しそうに駆け寄って来るのに、呼んでも反応が無い。

「シルヴァ!」

漆黒の隊服を纏った集団の内、アルヴァートは金の髪を振り乱し、誰よりも早く駆けつけ、俯いたままのリーダーを抱き締めた。

「怖かったな、シルヴァ。遅くなってごめんな。」

アルヴァートが声をかけてもリーダーの青い目は濁ったまま、汚い地面を見続けている。
遅れて到着した第四部隊本隊は絶句し、珍しく足並みを揃えて到着したラインハルトは外套を脱いだ。

「風邪を引くよ、シルヴァ。」

アルヴァートはラインハルトから外套を受け取り、細い身体をそれで隠した。
ラインハルトは乱れた白い髪を撫でて整える。
身体が温かくなったからか、大事な人と同じ黒髪を見たからか、リーダーの目がほんの少し現実を取り戻した。

「アルヴァさん。どうしよう。」

「どうした?」

「ルゥ、…ジーンが攫われた。」

乱れたリーダーの服を直していたラインハルトが、ほんの少し目を眇めた。
黙って現状に神経を尖らせていたクライヴは、笑顔の下に渋面を作る。

「ルゥを取り返しに、あいつが、ジーンも、」

「落ち付け。“ラドクリフは本部”だ。今は俺達がいる。ユージーン王子が取引材料なら直ぐには殺されない。だから大丈夫だ。」

「大丈夫じゃ、ないよ。アルヴァさん。きっと、ジーン、今、凄く、怖い。」

アルヴァートが思わずリーダーから手を離す。
リーダーは漸く、顔を上げた。
蛇が鎌首を持ち上げる様な不気味さで、アルヴァートを見上げる。

「早く、迎えに行かなくちゃ。」

周囲が不安になる様な表情だが、続くリーダーの言葉はしっかりとしていた。

「敵の大将は白髪に金の瞳の20代青年。名前はジョエル。目的は多くの人外を味方に付け得るユージーン王子。もしくは、」

すっ、と青い目の温度が下がる。
秋の空の様な色が、冷たい冬の海の、重く苦しい深さの色になる。

「戦力として申し分ない元部下であるラドクリフ。」

憎しみ、悔しさ、憎しみが溢れ、爆発しそうな小さな身体が小刻みに震える。
リーダーは歯を食い縛って叫ぶのを堪え、折角ラインハルトが整えた髪を掻き毟り、立ち上がった。
大事な友達と大事な家族を天秤に掛けられ地団駄を踏む。
アルヴァートはそんなシルヴァを見上げ、ふわり と羽が舞う様に記憶が蘇った。

 

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