short novel

□今でも変わらないこの気持ち
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もう、これであの冒険から何度目の夏になったのだろうと側にある携帯のカレンダーを見た。2010年、11年も経ったんだと時間の残酷さやその間の軌跡を思い返す。

始まりは唐突で、今でもよく覚えている。流星群のように降ってきたデジヴァイス、異世界での頼もしい仲間。全てが未知の謎だらけで、探究心を擽られていた。…まあ、それでみんなに迷惑をかけた時もあったけど。
それと同時に、悩みも沸々と煮えていたんだ。だけれど、それを打ち明ける勇気などなくて。だから一人を好んでいた。
一時は自分の探究心を捨ててしまったけれど、それは個性を捨てることにパートナーのおかげで気付かされた。
東京に残るまだ見ぬ仲間を助けるために元の世界に舞い戻っても惨状は変わらず、敵と仲間を捜す競争の状態だった。ようやく見つけた仲間、散る命。そして……、明かされる秘密。自分を理解してくれる大切な存在に感謝した。
最終決戦に向けてはとても辛く苦しい戦いだった。再会した仲間も無惨に目の前で散って、残るのは憎しみと悲しみのみ。相手はみんな強敵で、しかも自分達の心はバラバラに散ってしまって。でも、個々の闘いで強くなれるって知った。
自分の存在がデータに分解されて絶望した時もあった。その時のパートナーの言葉にどれだけ元気付けられたことか。

始まりの夏は本当に長くて短い冒険だった。

それから年の明けた春にも事件は起きた。小さな火種だったはずなのに、いつの間にか世界の命運を賭けた戦いになっていった。……まあ、こうしているんだから、無事なんだけど。

それからも色々な事が沢山起きた。後輩ができたのは嬉しかったものの、自分が戦えないもどかしさもあった。そうそう、夏休みはキャンプに行ったし、コンサートに行った次の日には香港にいたからね。


その後の春休みもまた大変な一日だったな。徹夜してみんなに指示をして。だけど、不謹慎に思うけど結構楽しかった。




大学に進んだ今でも、パートナーは僕の横にいる。中学や高校では物珍しげに見られていた彼も、今では普通の友達のように他の人間と接している。ううん、友達か。
「11年か…、長いようで短かったな……」
「そうやな。あと時間、大丈夫でっか?」
「え、時間…?」
時計の針は約束の時間の5分ほど前を指していた。
「あああ!あと5分しかない!今から出たって間に合わないよ…」
「ま、行きまひょか」
「そうだね。たまには遅れてもいいよね」


「あ、光子郎君来たわよ!」
「光子郎ーーー!!遅いぞ!」
「すみませーん!」
今年の夏もみんなで集まることができて、僕はとても幸せだった。
「そういえば就活は大丈夫ですか?」
「う、今日は休みだ!」
「私は今度試験があるから、それからね」
「俺も。バンドを続けるかも決めないとな」
「丈先輩はまだ国家試験がありますよね?」
「ああ。医師免許は取ったから、次は獣医のだよ」
「もしかして、働いてるのって私だけ?」
「そう…ですね」
「僕とヒカリちゃん、一乗寺君は大学に進みましたからね」
「そういえば大輔は?まだ来てないけど」
「飛行機に乗れなかったとかでしょうか?時差ぼけも考えられます」
「おーーい!!遅れてゴメン!!」

今年も楽しい夏が迎えることができてよかったと心底思う。これがずっと続くように、また僕は祈る。







♪ ♪ ♪
あとがき
今回はメモリアルとして小説を書きました。光子郎視点での11回目の夏をお送りしました。
大切な仲間と過ごすデジタルワールドでの思い出を一日中語っているといいですね。
ちなみに大輔はアメリカへ留学しているといいな、と個人的な願望があります。
現在放送しているクロスウォーズと共に、8月1日が迎えられることを喜ばしく思います。


2010.07.23 勇知誠

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