この世界では、吸血鬼、と言うのが普通にいる。



むしろ、吸血鬼という種族は頭も容姿もよくて、人間界でもとても権利ある種族だった。

そんな吸血鬼の屋敷に連れてこられたのは数年前。


一人の吸血鬼が道端に倒れていたのを助けたのがきっかけで、何故か吸血鬼の屋敷で一緒に住むこととなった。なんでも、オレの血が気に入ったそうだ。

初めは拒んでいたオレも、いつしか好意を抱くようになり、今ではその吸血鬼に片思い中。


好きになんてなってもらえないのはわかってる。所詮、食料としか見てもらえないのだから。










でも、側にいられるのも幸せなのかなって、そう思えたから・・・・・・












辺りは暗くなって、星が輝き始める夜、9時頃。

(そろそろ・・・・かな・・・・)

質のいい洋室のソファで時計と睨めっこしながら寛いでいると、案の定、ドアが開いた。


「やぁ、待ってたの。」

入ってきたのは漆黒の髪に漆黒の瞳を持った雲雀恭弥。黒いスーツをビシッと着こなし、ほのかに笑ってみせた表情に、綱吉はドキッと鼓動を荒げた。

「は、はい!そろそろ来ると思って・・・」

助けたその時から、綺麗な顔だとはわかっていたがどうしても見られると緊張してしまう。勢いで立ち上がってしまった綱吉にゆっくりと近づくと顎を持って顔を上に上げさせた。

「ふーん・・・。まぁいいや、君の血、ちょうだい。」

視線が合ったかと思うと、すぐに横に動かされて雲雀は頭を首筋に埋める。綱吉は何も出来ないまま、雲雀のスーツを握り締めるしかなかった。

初めにぬるりと消毒液をつけるかのように舐められ、次に鈍い痛みが襲ってくる。

「・・っ、あ、・・・・・」

痛みを我慢すると同時に、握り締める手に力が入ってしまう。それを気にも留めない雲雀は、刺した歯を抜いて、血を啜る。


此処からは、力の喪失感だけだ。


頭のてっぺんから、足の指先まで力が消えていく。少し経てば足は震え、立っては居られなくなり、腕で支える事も出来なくなってしまう。

血を吸う前の雲雀なら、倒れそうになる綱吉を抱きとめてくれるのかもしれない。


だが、血を吸った後の雲雀は綱吉を投げ離すほどに、乱暴に扱うのだ。

雲雀が勢いよく口を外すと焦ったように体を後ろに押され、突き放される。血を吸われて体を支える事が出来ない綱吉はそのまま重力に従うのみだ。

どさ、と床に叩きつけられ、体制を治す事だって出来ない。

雲雀はそんな状況の中、綱吉に何も言わず、何もせず、息をぜぇはぁ切らしながら重い足取りでドアへと向かう。



(雲雀さん・・・何だか苦しそう・・・オレの血は、雲雀さんを苦しめてるのかな・・・?)

霞み始める視界の中で、雲雀は辛そうにドアを閉めたのが目に入る。


こうして、雲雀にとって食事の時間が終わればもう次の食事まで会うことは滅多にない。

側にいられるから、と思ってきた綱吉も、数年もこの状態が続けば、精神的にも辛かった。



(わかんない・・・・わかんないよ・・・・。雲雀さんは何でオレを此処に置くの。なんでオレの血を吸うとあんなに苦しそうなの。何で、なんで・・・・?)




肩から滴る血と共に、瞳からも零れた涙が、毛の深いカーペットに染みを作っていった・・・・・





















「ん・・・・・」

眩しさを覚えて瞳を開けば、外は日がすでに上のほうに昇っていた。

(もうお昼前だ・・・・、雲雀さん、昼には滅多に部屋から出てこないし・・・オレも、出してもらえないしなぁ・・・・。もう少し、寝ようかな。)

そう思って、体を横に倒したとき、予想外にもドアが開いた。



もちろん、その先に居たのはこの屋敷の主、雲雀だ。


「・・・昨日そんなに吸ったつもりはないんだけどね。まだ起きれないかい?」

綱吉が横になるのを見たからか、不満げにそういう雲雀に、綱吉は飛び起きた。

「だ、大丈夫です!!」

のはずが、急に飛び起きた事で頭に血がまわらなく、クラッと視界が歪んでしまう。



・・・・あ、力はいんない・・・・



そう思ったときには遅く。ゆらりと体をゆらして、綱吉は頭から床にダイブした。・・・・・・・・・・・が、体に衝撃は走らず、その代わりにしっかりとした腕が綱吉の体を支えていた。

「っ、あぶない。・・大丈夫じゃないでしょ。」

少し驚いた顔で綱吉を受け止める雲雀に、心が躍ってしまう。

(ダメなのに・・・雲雀さんにとって、オレは食料。期待しちゃ、ダメ・・・・)

いつもは見れない必死な雲雀の顔を頭に焼き付けながら、綱吉は戻ってきた力で立ち上がった。

「す、すみません。ちょっと立ち眩みしただけで、大丈夫ですから!」




こんなにも側にいるのに、どうしてこんなに遠く感じてしまうのだろうか。微笑を返す綱吉だったが、心の中は涙でいっぱいだった。



側になんて、居ないほうが良かったんだ。


そんな綱吉の心内など知る由のない雲雀は、綱吉を支えるでもなく、抱きとめるでもなく、静かに口を開くだけだった。

「そ、そう・・・。念のため今日はもう休みなよ。後は哲に世話をさせるから。」

それだけ告げて、部屋を早々に出て行った。


離れていく後姿に、ポロっと涙が零れる。




(オレ、欲張りになっちゃったんだ・・・・)



側にいたいんじゃなくて、側に居て欲しいって思ってしまってる・・・・。
だから、辛いんだ。苦しいんだ。
どうしたら、いいんだろう。どうしたら、苦しくないんだろう。

前みたいに、もう思えないよ・・・。


















気が付けば、もうあたりは真っ暗だった。
どうやら泣きつかれて寝てしまったらしい。顔を伝った雫たちはシーツ濡らしている。


よく見渡せばテーブルには食事が置いてあった。
今は、口にする気にもなれなかったが。

綱吉が先程の様な貧血を起こしてしまう原因は、此処にもあるのだろう。ここ最近、考え込みすぎて、食事が咽喉を通らないのだ。

(血を作らなきゃ、オレは捨てられちゃうのかな。)

フッと自嘲的に笑みを零して灯りの付き始めた外を見る。


その時、外に居た人物に綱吉は眼を見開いてしまった。



髪がロングで、スレンダーな体つきをした美しい女性。そして、予想外にもその女性の前を歩くのは雲雀だった。


屋敷に通しているようで、女の人は嬉しそうに雲雀の後を追っている。



(・・・・誰・・・??もしかして・・・・恋、人・・・・・・?)

自分でそれを思い浮かべた瞬間、頭から血の気が引いていった。顔色を真っ青にして、窓に縋るように膝を落とす。

(食料としても・・いらなくなっちゃうかも。どうしよう・・・捨てられちゃう・・・)

考えをめぐらせても解決策なんて見つかりっこない。
頭をクシャッと掴んで、やるせない気持ちをどこかにやろうとしても、もう何も考えれなかった。



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