頂き物

□下手な嘘
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仲間が寝静まった真夜中、俺は宿屋を出て街の出入り口に向かっていた。
理由は簡単。
アッシュから回線を繋げられ夜中に宿屋を抜け出して来いと言われたからだ。
理由は…まぁ、大体予想付くけどな…


「遅い」

「遅いって…しょーがぬぇーだろ、中々皆寝なかったんだよ」


待ち合わせ場所に行けば自分より濃い赤毛が見えて、近づけば文句を言われた。
それにため息をを吐きながらアッシュの前に立てば、俺と同じ目線にある俺より綺麗な翡翠色の瞳が躊躇するように視線を逸らした。


「…お前、本当にアクゼリュスに行くのか」

「またそれかよ…行くって言ってんじゃぬぇーかよ」


呆れたように、盛大に息を吐けば先程の躊躇を捨てた強い瞳が俺を捉えた。


「わかってんのか!アクゼリュスに言ったらお前は…!!」

「死ぬ、だろ?んな事、知ってる」


続く言葉を口にすればアッシュは顔を歪めて視線を下に落とす。
らしくない、と思う。
いつも俺につっかかって来るのに。
変わったのはきっと、俺達が初めて剣を交えた時からだ。

俺は、アッシュのレプリカだという事を知っていた。
ヴァンに聞かされたからだ。
お前は本当のルーク・フォン・ファブレの代わりでアクゼリュスで死ぬのだと、その為だけに造られたのだと。

聞いた時、信じられなかった。
でも本当に俺がレプリカなら、昔みたく勉強が出来なかったり性格ががらりと変わっていたりだとか、色々と説明がつく。
髪色だって、瞳の色だって写真のルークの方が色鮮やかで綺麗だ。
ヴァンは言った。
「お前は劣化している」と。
だから俺は勉強も出来なくて、色もおかしいんだ。
そして俺は納得して、同時に自分がレプリカだという事実を受け入れた。

剣を交えた後、アッシュからの回線が繋がって。
そこでアッシュは気付いたんだ…俺がレプリカだと言う事実を知っていると。
俺が死のうとしていることも…

ただ、死ぬためだけに生まれた俺は生きる事が苦痛となっていた。
いずれ死ぬなら、楽しみなんて無ければいい。


「俺は…」


ずっと俯いていたアッシュが口を開き、顔を上げて真っ直ぐに俺を見つめてきた。
今度は俺が、逃げるように顔を背ける。
アッシュの眼を…ずっと見ていたら……

「(死ぬのが、怖くなる)」

「俺は、お前が…!?」

その次に来る言葉なんて、簡単に想像できて…俺は聞きたくなくて(嘘。聞きたかった)アッシュの口を手で塞いだ。


「駄目だぜ、アッシュ…」


言ったら、駄目なんだ。
聞いたら死ねなくなっちまう…俺は、お前の代わりに死ぬんだ。
誰かの代わりに死ぬ…そんなの、絶対に嫌だけど。

アッシュの代わりならいいって思ったんだ。


「アッシュ…」


背けた顔を、前に向ければ翡翠色の瞳と視線が絡んで。
アッシュは俺の手を振り払う事もせず、ただされるがままになっている。
名前を呼んで、塞いだ手の上から唇を重ねた。


「                」


小さく呟いて、ゆっくりと手を離して俺はそのまま後ろを振り向かず、宿屋に帰った。


――最初から、好きにならなきゃ良かった――


「っ…馬鹿野郎…もっとましな嘘を吐きやがれ」


ズルズルとアッシュは壁に寄りかかりながら座り込んだ。
ぐしゃりと前髪を乱しながら、唇を噛み締める。

好きになってしまった。
憎むべき存在を。
それはルークも同じだった。
それを知った時、喜んだ。

でもルークは死のうとしていた…それを止めたくて、何度も説得しに会いに来た。
だが、ルークの意思は揺るがず、結局自分はルークを止めることが出来なかった。


「好きになんてならなきゃ良かった、なんて…」


手の平越しに触れた唇。
感じるわけないのに、熱い、と思った。
吐き出された嘘には、直ぐに気付いた。


「思ってもねぇこと、言ってんじゃねぇよ…」


微かに震えた声に、アイツは気付いてただろうか?
どうせ…俺がアクゼリュスに来ない様にする為に、あんな事を言ったんだろう……


「悪いなルーク…俺は、お前を助ける」


どんなに死にたいと泣き喚いても。
絶対に死なせねぇ。
バッドエンドなんかに、興味はねぇからな。


ゆっくりとアッシュは立ち上がり、その瞳に決心を宿してアクゼリュスへと足を向けた。
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