頂き物
□曖昧な世界の君と僕
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闇でも光でもない曖昧な光辺りを埋め尽くす世界の真中でルークは瞳を開ける。
既に此処に来ることが当たり前だというように足を進め始めたルークの視線の先にある花畑に瞳を向ける。
いまだ距離があることに舌打ちを零して早足で花畑へ行くとやがて聞こえてくる歌に知らずと笑みが零れた。
「また歌っているの?”ルーク”」
流れる朱金の髪ごと身体を後ろから抱きしめるように腕を回すと一瞬身体を硬直させてすぐに力を抜いた。
抱きしめた人物が自分だと分かったのだろうゆっくりと此方に振り向いた”ルーク”は自分より少し下に向いた瞳を向けながら口を開いた。
「…いきなりくるんじゃぬぇーよ」
本当は自分が来たことが相当嬉しかったのだろう。
振り向いた瞬間自分の腕を力いっぱい握ってその掴んでいる手は心なしか震えている。
「ごめん、結構忙しくてあんまりこっちにこれなかったんだよ」
苦笑しながら曖昧な空に視線を向ける。
この世界はいわば自分達が互いに作り出した世界で、ある意味では仮想空間に等しいものだから来れる期間が限られている。
その分”ルーク”に寂しい想いをさせていることもちゃんと理解しているのでいまだ身体に手を回している”ルーク”を強く抱きしめた。
「ごめんな、一人で待たせて。怖かっただろ?」
「なぁ!?子供扱いするんじゃぬぇーよ!!」
顔を真っ赤にしてすぐさま身体を離した”ルーク”に軽く笑いが零れる。
素直になれないところが可愛いなと思いながら誘うようにたなびく”ルーク”の髪に自分の指を絡めた。
「…、!?」
ぴくりと反応したことに機嫌を良くしてさらに髪を絡める。
敏感に刺激を受け取っていく”ルーク”に薄く笑みを浮かべながら髪の間から見える耳に唇を寄せた。
「ふ、あ…止めろ、よ…」
身体をだんだんと縮めて快楽を逃がそうとする”ルーク”をさらに追い詰めるように舌を耳に絡める。
「…、ああ!?」
甲高い声を上げた”ルーク”は力が抜けたように崩れ落ちてそれを器用にルークは受け止める。
荒い息を繰り返す”ルーク”に上から瞳を向けると涙目になりながら力が入らない手の平をルークの腕に向かわせた。
「…っ馬鹿野郎…」
恥ずかしそうにうずくまる”ルーク”に笑みを浮かべ身体を横にして抱き上げる。
「な!何…?」
「どうせ力入らないだろ?大人しくしとけよ」
暴れないようにちゃんと固定しながら花畑をゆっくりと歩くと最初は抵抗していた”ルーク”だがやがて諦めたのか身体の動きを止めて大人しく肩へと寄りかかる。
「…そっちは大丈夫なのかよ」
不意に呟かれた言葉は彼の代わりに今ルーク・フォン・ファブレとしてイキテイル自分に向けられた言葉。
アクゼリュスが崩落した時、その罪の重さに耐え切れず逃げ出してしまった”ルーク”の後悔の思いが込められていた。
「”ルーク”が心配することは何もないよ」
顔を歪ませる”ルーク”に淡い笑みを零して囁く。
”ルーク”が逃げ出したその時生まれた自分にとって”ルーク”は母親とも父親ともとれる存在。
何故彼がそんな顔で心配するのかが分からなかった。
「俺が、俺が逃げたから…お前が辛い目にあってるだら…」
顔を俯かせながら小さく呟く姿は生まれたばかりの子供を連想させてなんとも言えない感情が胸に広がる。
「…やっぱり”ルーク”は優しいよ」
強がりながらもいつだって誰かを気遣っていたのだから。
泣き出しそうな表情を浮かべた”ルーク”の額に優しく口付けを贈り強く抱きしめる。
「ねぇ”ルーク”。お前が逃げ出したのはお前がお前自信を守る為。そして俺が生まれたのはそんな弱いお前を守る為」
自分は”ルーク”を守る為、その為に生まれたもう一人のルーク・フォン・ファブレ。
罪に耐え切れず精神の奥の奥まで逃げてしまった”ルーク”の代わりに罪を償う者。
「お前が俺を心配する必要なんて無いんだよ。
だって俺はお前の為に存在しているんだから」
自分の短い髪がこの世界に存在するはずの無い風によって靡くのを静かに感じる。
もう少ししたらまた現実の世界に戻らなければと小さく口にしながら震える”ルーク”の身体を力強く掻き抱いた。