長編もどき

□無題
2ページ/5ページ

「ルーク、逃げよう」


そう言って、俺は自分そっくりの片割れに、手を伸ばした。


「なぁ、逃げよう…もう、うんざりだ」


痛々しく体に残った傷。

儚げに笑い、自嘲する表情。

俺が責められる度、自分が産まれてこなかったら、と嘆く卑屈さ。

外の世界に出るコトすら叶わない…何も出来ない無力な自分。

全てが全て、もう、うんざりだった。

くだらない実験で、俺達は利用され続けてきた…

五年。

それは、途方もない月日で…

もう、疲れてしまった。


「外に、行こう」


其処に、何があるのかなんて、分からないけど。

でも、きっと…打開策がある筈だから。

少なくとも、此処よりは、マシな筈だから。

だから…

驚く片割れの手を無理矢理引っ張って、剣を片手に逃げ出した。















































《全ての研究員に告ぐ、超振動試験体002が、001を連れ、逃げ出した。
見つけ次第、直ちに捕縛せよ。》

《尚、試験体002は廃棄処分が決定された》

《捕縛次第ーー試験薬444を使用せよ》





















































「あっ…がぁ…」


体が、打ち付けられる。

痛い、痛い痛い。

体が全く言うことを聞かない。

片割れが何かを叫んでいる。

でも、意識が遠のき始めて、距離が、遠すぎて…

聞こえない。


「ちっ…手間掛けさせやがって…」

「試験薬は?」

「持ってるよ。
ったく、出来損ないが、迷惑ばっか掛けやがって…」


そんな声が聞こえて、首筋に何か打ち込まれた。

瞬間、体が脈打った。

異常な程、心臓が早鐘を打ち始め、息が乱れ始める。

初めて感じる体の中で何かが暴れ回る感覚。

それは、余りにも可笑しな感覚だった。

ただ、分かるのは…

コレが非常に良くない力だと言うこと。


《さ、先程の放送で誤りがあった。
試験薬444を使ってはならない!!
あれは、超振動を促進させ…》


ガクンと、体中の力が一瞬で、抜け、力が…

破壊の力が、一気に解放された。





















































「ルーシュ…ルーシュ!!」


名前を呼ばれ、目を開ける。

すると、其処には見慣れた朱と、見たことの無い青があった。


「こ…こは…?
俺は、一体…」


抱きしめられていたまま、首をのろのろと動かす。

すると、其処には砂原が広がっていた。


「外…?何で、俺…捕まっちまって…それで…それ、で?」


どくん…


胸が、熱い…いや、痛いーーーー?

人が、消えて、消えて…

光に、埋もれて…


その、神の力を持ったような光は…


俺は、手を、見詰めた。

真っ白な自分の手を、見つめて…


「あ…ああ、うぁぁぁぁああああああ」


記憶が、フラッシュバックした。




悲鳴

怒号

憎悪

嫌悪

軽蔑


意識が途切れる直前に見た、全ての負の感情(ベクトル)は、自分に向かっていた。


汚れていない、手。

でも確かに自分の手は…

真っ赤に穢れていた。


「る、ルーシュ、落ちつ…」

「触るなっ!!」


パァンっ、と音が響く。

半身から飛び退き、体を抱える。


腕を血が出る程握り締め、カタカタと震える。

そんな俺に、ルークは戸惑ったように俺を見る。


「るー…しゅ?」

「近付くな…俺は…俺が…違う、そんなつもりじゃ…俺の、俺のせいじゃない!!
俺は悪くない!!
俺は…俺は悪くない!!」


耳を塞ぎ、首を横に振る。

人を殺した人を殺した人を殺した!?

沢山の人を、一度に?

違う…違う違う違う!!

俺はそんなの望んでいない!!


「彼奴等が…彼奴等が悪いんだ!!
俺は…やりたくてやったんじゃない!!」


頭が痛い。

涙が、勝手に出てきた。

体が、ガタガタと震える。

混乱して、目の前が真っ白で、何も考えられない。


「違う…違う…俺は、悪く…俺のせいじゃ…」

「ルーシュ!!」


何度も同じ言葉を繰り返す俺に、ルークは悲痛そうな声を上げ、俺を抱き締めた。

強く、強く、離さないと言わんばかりに…


「ルー…ク、触るな……」


ルークも、汚れてしまう…

そう呟くと、ルークは首を何度も振りながら、叫んだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ