長編もどき
□無題
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「…帝国出てから初めての海が雨ってのは、やっぱぬぇよなぁ」
パシャリ、と水たまりを蹴り上げながら、長い朱金の髪を掻き上げる。
見つめる…否、睨みつけるのは、いつもは賑やかな筈の港町の中に建つ、大きな豪邸。
この町の執政官が居る邸だ。
ジーッとその邸を睨み、はぁ…と疲れた溜め息を吐く。
騎士団の巡礼で初めて見た…帝国の近く以外の外の世界。
片割れと共に海を見て、その海に近い港町で、もっと近くでその青さを見れると思っていたのに、ウザい執政官のせいで土砂降りの雨。
面白くない。
まったくもって、有り得ない。
「ルークも見たがってたし、フレンとも少し遊ぶ約束してたっつーのに、クソ執政官の野郎ぉ…絶対ぇ許さぬぇ…」
自分勝手?はっ、言っとけ。
自分勝手で何が悪い。
自分は片割れみたいに、みんなを救うなんてコトは考えられない。
自分は、自分と自分の大切なモノを護るので精一杯なのだ。
悲しい程自分は弱い…人間だから。
だから、自分の大切なモノを護るには、犠牲は厭っていられないのだ。
「強制調査権限っつー奴はアテになんぬぇーし…やっぱ貴族のカッコして中に入って厄介事起こすのが一番…」
「ルーシュ!!」
独り言を遮られ、振り向く。
其処にはそっくりな顔。
全く違った表情があった。
見分けが付きにくいと言って、短く切っている朱色のひよこみたいな髪と、自分と同様に翡翠の瞳を持った片割れが。
「ルーク。
どうしたんだよ?」
「ソディアが、一旦フレンのトコに戻るってさ。」
「ふぅん…」
「ふぅんって、ルーシュも一緒に行くんだぞ!!」
気のない返事をすれば、そう言ってくるルークに、少し目を見開く。
「は?俺もかよ」
「あったり前だろ。
ルーシュはフレンの片腕だし、第一放っといたら絶対無茶するから監視するようフレンにも言われてるしな。」
「うっ…」
いきなり図星を刺され、少し言葉に詰まる。
それに、ルークの目が細まるのが分かった。
「ル〜シュ?」
「なっ、何だよ!!別にルークが思ってるみてぇなコトは考えてぬぇーぞ!!」
「嘘吐くな。
どーせ、自分の地位を利用して邸に乗り込むつもりだったんだろ。」
「……ち、違ぇし、んなこと考えてるわけ、ぬぇーだろ」
ふいっと目を逸らすと、溜め息を吐かれた。
「ルーシュ、無茶するなっていつも言うだろ?
まったく、見境ないんだから…お仕置きに、フレンに説教してもらわなきゃな」
「げっ、ちょ、勘弁してくれよぉ…フレンの説教長ぇの知ってんだろ?」
「だから、お仕置き。
何回言っても聞かねールーシュが悪いんだからな」
「はぁー。つか、お前ら過保護過ぎんだよ。
一番手っ取り早い方法なのに、危険っつっていっつも遠回りするし。
お陰で遊ぶ時間が減るんじゃぬぇーか」
「遊びに来てる訳じゃないんだけどなぁ…」
困ったように笑いながら、頭を掻く半身を、少しぶすぐれた表情で見やる。
「自分のが自己犠牲精神激しいクセに文句は一人前だよな。」
「うっ…そ、そんなこと…」
「あるよな?
ったく、自分が代わりに〜が多過ぎなんだっつーの、フレンはまだしもルークは。
俺は自分が死ぬよーな行動は起こさないからまだマシだろ?」
半眼で睨みながら言えば、ルークはうっ、と唸って押し黙る。
それに俺はふふん、と勝ち誇ったように胸を張った。
「人のコト言う前に自分のその厄介な性格どうにかしろっつーの」
「う…努力する。ごめん…」
先程までの勢いは何処へやらしゅん、と縮こまったルークに、俺は、言いようのない罪悪感に苛まれる。
思わずチッと舌打ちをして、俺はルークに手を差し出した。
「ほらっ」
「え?」
「フレンとこ戻るんだろ、とっとと行くぞ」
キョトンとする片割れに溜め息を吐きながら、そう言う。
すると、片割れは酷く嬉しそうに、花が咲いたように笑った。
…こういう所は、全く自分と似ていぬぇーな。
ギュッと手を握ってくるルークに、ぼんやりとそう思う。
手をグイグイと引かれながら、自分とルークとの違いに、少し微笑んだ。
「フレン〜いるかぁ?」
「居るに決まってるでしょう!!」
やる気の無い声で、コンコンとノックをすると、横で…えーと、あー、確か…ウィチル、が怒鳴った。
耳が痛ぇ…
眉を顰めると、ルークが横で苦笑する。
んだよ、その呆れた顔は…
思わずルークをジト目で睨んでいると、ウィチルが乱暴にドアを開けた。
「フレン様!!ご報告したいことが…ッ」