ユグドラシル

□ユグドラシル 10
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救助には膨大な労力が必要になる。

救助する人間。
治療する為の治療士、医者。

治療に必要な物品。
何千と言う人間が必要とするであろう食糧。
生活物品。

安全圏まで移動する手段。
当座、生活する為の簡易居住施設。


そのどれが欠けていても救援は意味をなさないし、また相手に取っても残酷だ。

何よりこちらも危険過ぎる。
二次災害が起こらないとも限らない。



それを踏まえて準備、行動を起こさねば為らないにも関わらず、今回の救援はそのどれもが足りない様に思えた。

その考えを読んだ様にナタリアは告げる。


「何もかもが不足していますわ。


人も物資も、中身の無い脱け殻の様…。

以前、ケセドニア北部の戦へ慰問に出かけましたが、その時ですら今より多くの人間が動いていました。

ダアトの御人が今回の和平に強固に反対した事を考えますと、何かあるかと。」


対立する派閥。
誘拐された導師。

微妙な国家間の緊張。


何か策謀が有るとしたらこれを契機に動き出す可能性はある。


「私の姿が無ければ、容易くアグゼリュスに行った事は知れましょう。
人目を避け行動している以上、途中で連れ帰る事は無理。

となれば目的地であるアグゼリュスで待ち構えるとしてもそこはキムラスカに仕える軍人の端くれ。

ただ待っているだけと言うだけでは無いでしょう。」



ついでに善からぬ事を考えている方々が居たとしても、動きを躊躇わせる事ぐらいはできましょう。


自分を探しに来た軍隊までも救助へと回すと彼女は言外に告げた。


派閥闘争に明け暮れる貴族の中に幼い頃から身を置き育った彼女は何処までも強かだった。






・・・・・




辺りを包む闇が濃さを薄める。

外が近いのか辺りに明かりが増える。


折り畳み式の梯子を降りればそこは外の様だった。

空気が動く。
新鮮な風が頬にあたる。

危険が無い事を確認して外に降りれば濡れた草と地面の感触。

振り仰げば顔と言わず身体中にぱたぱたと雨の雫が落ちる。


長らく密閉された空間に居た体にはその冷たさが気持ちが良かった。





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