ユグドラシル

□ユグドラシル 10
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水分を含んだ風が吹く。
明るさに目が慣れないのかうっすらと視界が霞む。

目を慣らす意味で辺りを見回す。

バチカルを覆う外壁を抜けたその場所は広大な草原だった。

見えるのは何処までも続く地平線と暗い雨雲に覆われた空。



そして有る一点で視線が釘付けになる。



雨で煙り曖昧になった地平線と空との境界線に存在する鮮烈な色。


聖獣チーグルの森で、戦艦タルタロスで、フーブラス川で幾度と無く現れ消えた黒衣を纏ったその姿。

後ろ姿のため顔は分からない。

ただ圧倒的な迄の存在感がある。




目が離せられない。


身を守る様に纏う黒衣は同じく変わらない。
ただ、黒であった筈の髪は今は朱色へと変わっていた。


赤に連なる色はキムラスカの王家の血筋。

それ以外で出現する事は限り無く零に近く、実質的に有り得ない。



「…ルーク、あれは一体、‘誰’ですの…?」


隣まで来たナタリアが震える声を上げた。



逃げなくてはと頭の中の冷静な部分が告げる。

ここで見つかってしまえば今までの苦労は水の泡だ。

分かってはいるが体が動かない。



男に庇われる様にして翠の色彩が目に入る。


誘拐された導師イオンと六神将の一人、烈風のシンク。


気が付いた時には走りだしていた。


「イオンを返せ!!」


後ろで自分を止める声が聞こえるが無視した。
腰に履いた今では使い慣れてしまった剣を引き抜く。

視界の端にこちらに気付いたイオンの驚きに満ちた顔が見えた。

男はまだこちらに向かない。
背中を見せたまま。

シンクが何かを叫ぶ。

走って走って、地を蹴る。
飛び掛かり間合いに入るその一瞬、男が振り向きざまに抜刀した。

仕掛けた攻撃は容易く男によっていなされる。

攻撃の手数はこちらが多い。
だが、それでも圧倒的なまでの実力差をまざまざと感じる。

これが戦場と言う実戦で身についた力なのか。



「アッシュ行くよ!!」


シンクの言葉にアッシュが一瞬、注意をこちらから外す。
意識がそちらへと向く。

生まれた隙に更に一歩間合いを詰めた。

袈裟懸けに切り上げる。



アッシュが笑ったのが分かった。




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