ユグドラシル

□愛しい声で
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懐かしい夢を見た
懐かしい夢


辛く
哀しい
事ばかりだったけれど


精一杯生きた
幸せだった

自分に取っては大切な
《過去》の夢

そして
違ってしまった
これから
起こるであろう《未来》

懐かしい声で
優しい声で

名を呼ばれる


ああ

早く
早く

目覚めなければ…


この優しい悪夢に
囚われてしまいそうだ


だって
決まって最後に
最後に
俺の名を呼ぶのは

あの最愛の

失ってしまった
《紅》なのだから――。




ほら


呼ぶ声が聞こえる





・・・・・




ゆっくりと意識が覚醒するのがわかる。

目を開ければいつの間に泣いてしまったのか視界は歪み、揺れる。

窓のカーテンごしに部屋に入って来る光が眩しくて、思わず枕に顔を埋めて、目に溜まった涙を拭った。


胸を引き絞られる様な痛みがある。

痛くて
痛くて

また泣いてしまいそうな

《痛み》



病では無いから安心出来るとは言え
病で無いからこそ始末に負えない。


理性でどれだけ抑えても
感情は泣き叫ぶ

仕方ないかとも思う。

場所が場所だったから。


キムラスカ・ランバルディア王国、首都バチカル


《過去》
俺が奪い生きた場所

そして
《始まりの日》
《紅》に返した場所


ここには
《紅》が居る


そう思えば
抑えた感情は暴走し

全てをかなぐり捨てて
会いたくなってしまう

けれど
それは出来なかった

もう二度と
失いたく無かった
失え無かったから

もう一度
あの喪失を味わえば
恐らく自分は正常ではいられない

失った痛み
に狂気に堕ちるか
生きる事を諦めるか

どちらにしろ
二度目は無く
失敗は許されない


息を一つ吐いて
気分を切り替える為に窓を開けて朝の風を部屋に引き入れた。

少し肌寒い空気
そびえ立つ王城

街並から見上げる風景は
霞がかっていて

美しく荘厳

一息付いて
手元にある数枚の書類に目を通す。
書かれてあるのはある男の簡単な資料と顔写真。

それが俺がこの国に来る事となった一番の原因。

大切な養父、サフィールから個人的に受けた任務だった。





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