ユグドラシル
□毒の杯を飲み干し
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「カント、ちょっと良いか?」
食事前の少しの時間。
導師イオンの奪還を明日に控え当分は無いであろう平和な時間を逗留先であるケセドニアで仲間の面々は思い思いに過ごしていた。
ジェイドとガイはそれぞれ独自の部屋へと戻り、女性メンバーは談話室で談笑中である。
そんな中、お目当ての人物に声をかけるのは若干どころでなく気が引けたのだが腹を括り声をかけた。
「どうした?」
話の腰を折ったにも関わらず白金の髪の彼女は気を害した風もなくこちらを振り向く。
「少し相談したい事が有るのだが…。」
ちらりと他の女性陣を見て、やはり出直した方が良いかと言う考えが頭を過る。
「分かった。
少し場所を変えよう。」
席を立ったカントは他の面々に悪いなと断って、場所を変えるため外に出る。
宿の談話室を抜けて外に出れば、ようやく日が暮れたばかりで辺りには光を灯した露天と行き交う人々でごった返していた。
先に外に出ていた彼女はさっさと露店で何かを買っていた。
戻って来た彼女の両手にはカップに入った果実のジュース。
「どうぞ。」
カップの一つを手渡され飲む様に促される。
口を付ければオレンジの程よい酸味と甘味が美味い。
オレンジのジュースを飲みながらぶらぶらと露店を冷やかす。
「こう言う場所の方が反対に人が多い分、他人の記憶に残りづらい。
内緒事をしていても誰も気にしないからな。
まあ、尾行されていない事と本人が人目を引かない事前提だけどな。」
確かにそうだ。
人が多過ぎる場所ではいちいち他人の事まで覚えてはいないだろう。
今は朗らかに笑ってはいるが、カントは間違いなく騎士であり軍人だった。
バチカルからケセドニアに至る道すがら敵、魔物に襲撃される事は少なくなかったが、それ程被害が少なかったのは彼女が居たからだ。
圧倒的な迄の剣技。
恐らく、敵を倒す為だけに突出し、磨き上げられた技。
剣を手足の様に扱い、反撃の暇を与えず切り伏せる。
恐ろしいと感じると同時にどこか気分が昂揚する。