ユグドラシル
□ユグドラシル 11
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湿った苔と黴臭い臭い。
底冷えのする冷気が足元から這いずり上がってくる。
安定した変わりの無い気温に湿度。
地下の深いこの場所では地上の熱気がまるで嘘の様だ。
「大丈夫か?導師。」
導師イオンの隣、付き従う様に歩く朱色の髪の仮面の男が気遣う様に声をかけてきた。
「…はい。大丈夫です。」
穏やかな雰囲気を纏う男はバチカルを出た所で仲間であるルークを容易く圧倒した人物と同じとは到底思えない。
細々と体力の無いイオンに気を遣い補助をする、それ程までに仮面の男、“鮮血のアッシュ”は優しかった。
一行を先導しているのは“烈風のシンク”。
イオンの大切な大切な兄弟。
アッシュとシンクと共にイオンは深く暗い二千年の時を忘れられた遺跡都市を降る。
「着いたよ。」
何が目的で、何をさせたいのか。
分からない事ばかりだったが、この先でイオン自身がさせられる事は朧気ながらに理解できていた。
きっとあの時、タルタロスから連れ出されシュレーの丘と同じであろう事は予想が出来た。
この先にあるのは“セフィロト”の筈だ。
そこは古い扉の前だった。
埃と砂とに半ば埋もれたその扉はやはり見覚えが有った。
形式は古いダアト式封咒。
「…セフィロト。」
予想に違わぬ場所。
目の前の男が何を考えているのかが分からない。
「貴方方は一体何を行おうとなさっているのですか。」
間違ったかもしれないとこの時、イオンはようやく感じた。
シンクが信用している様だから言われるがままこの場所へて付いてきたが、味方である確信はないのだ。
シンクさえも出し抜いて、“誰か”と繋がっていたとしたら…?
そう考えた瞬間、イオンの全身にぞっと怖気が立った。
「導師その事は…。
ああ、でもその前にお客さんが来たようだ。」
鮮血のアッシュはゆったりと楽しそうに笑った。
・・・・・