ユグドラシル
□ユグドラシル8
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フーブラス川を越え、およそ三日の距離を歩き、ようやく次の街、砦と言った方が相応しいのか、が見えてくる。
キムラスカ・ランバルデア王国とマルクト帝国の国境。
休戦を機に両軍が駐留する非武装地帯。
国境の砦、カイツール。
もしも戦争になる様な事があればここが両軍の最前線となる。
言い知れぬ緊張感。
砦へと近付けばそれが否応なしに分かる。
誰もが戦争が近い事を理解している。
街を取り囲む城壁の入口で見知った人影を発見した。
蒲公英色のリボンで黒茶の髪を二つに括り肩に縫いぐるみを背負った姿。
濃い桜色の服に身を纏うのはあのタルタロス襲撃に際して逸れた導師守護役の少女だった。
どうやら入口で入れて貰えないか交渉していた様だが無理だったのか囁く様な悪態をつくのが聞こえた。
「アニス〜?
ルークに聞こえますよ?」
明らかなからかいを含んだ声でジェイドが言うとアニスは一瞬動きが止まり次の瞬間には俺へと抱き着いてきた。
「ルーク様!
ご無事で何よりでした〜!
もう心配してたんですからね〜?」
その余りの変わり様はいっその事、見事と言えるものだった。
ボソリとガイが何かを呟くのが聞こえたがその内容にはただ苦笑するしか無かった。
導師守護役と初顔合わせのガイが簡単な自己紹介と雑談が済み、話しは実質問題へと移行して行く。
実質問題。
「…俺もティアも旅券が無い。どうやって検問所を抜ける?」
ジェイドが思案げに呟いた時、聞き慣れた声がかけられた。
「…旅券の事なら心配はいらん。」
咄嗟に反応したのはティアだった。
「…ヴァン!」
彼女は叫ぶと同時に大腿にあった隠しナイフを構える。
顔色は蒼白。
口唇はわななき明らかに緊張していた。
「…ティア、武器を収めなさい。
お前は何か誤解をしているのだ。」
相対するヴァンは剣の柄にさえ手をかけていない。
「頭を冷やすんだ。
私の話しを冷静に聞ける様になったのなら宿に来なさい。
私はそこで待っている。」
諭す口調は兄弟の親しみを込めたもの。
ヴァンはそこまで言って、今度はこちらへと体を向ける。
まがりなりにも武器を持った相手に対して無防備とも取れる行動ではあったが、ヴァンの実力からすれば問題無いのだろう。
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