ユグドラシル

□ユグドラシル 1
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眩し過ぎる光の中で僅に意識が混濁してゆく。


白い闇。

眼を焼くような輝きの中で唯一認識できるのは己の半身とも言える真紅の色。

動かない身体。
奪われてゆく体温。
失った大切な人。


「…アッシュ」


不意に零れ落ちた言葉。

名前。

それは実感として感じる死という現実。
恐ろしい程の喪失感


もうこれから彼が自分に悪態を付く事もない。
怒る事も優しい声で自分を呼ぶ事も、自分より色の鮮やかなあの意思の強い緑柱石の瞳で自分を見る事も…。

もう永遠に有り得ない。


「……っ!」


不意に視界が霞む。
動悸が打ち、頭が真っ白になる。

感情の溢れ出したままに涙が頬を伝う。

動かない彼の頭を掻き抱きただ押し寄せるのは後悔と憐憫、そして疑問。

何故なのだろう?

何故、彼でなければならなかたのか。

何もかも奪われ、都合のいい道具として扱われ、最後にはその命すらも他者の手で奪われた。

なんて残酷で理不尽。

どうして、せめて造られた自分ではなかったのか。

そのために造られたはずだった。

彼の身代わり。

代用品。

死ぬ事に対して何の躊躇いも無いとは言わない。

死ぬ事は怖いし、死ななくてもすむなら進んで死のうとも思わない。

だけど…。

自分はもう長くない命だった。

細胞を接続している音素の乖離。

そう遠くない日に細胞崩壊を起こして死ぬ自分。

それならば、出来る事を大好きな人が暮らせる世界を守りたいと思った。

残り少ない命をかけても。
その価値が有ると思った。

だがその結果として。


最愛の人を失った。

そして今、自分も乖離を起こして消滅しようとしている。


「…アッシュ、ごめん。」


守れなかった。
大切な人なのに…!


―――――ルーク…。

壊れる寸前の心に自分を呼ぶ声が聞こえる。




遥かな天上よりの舞い降りし『声』


厳かなその『声』は…。


「……ローレライ?」





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