ユグドラシル

□ユグドラシル 3
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「何が起こった!」

慌ただしく走り回る神託の騎士団兵士。

事の始まりは先刻響いた爆音。
いや、正確には超振動とそれに伴うエネルギー消費音だった。

超振動とはおいそれと使えるものではなく、使用者も酷く限定する技だ。

「一体誰が…」

胸騒ぎがする。
心辺りが無い訳でも無いが可能性としては極めて低い…、いや、使用出来ない状態にしてあった筈だ。

「ヴァン揺将!」

一人の兵士が走り寄って来る。
そして告げられた事実。

「…何だと!」

眉をしかめる。
たどり着いた現場で見たものは脱走した被験者。

そして被験者が居たであろうベットで気持ち良さそうに眠るレプリカの姿だった。




・・・・・




いつもいつも繰り返し見る夢がある。

太陽の色。

日だまりのような暖かさ。
優しい優しい声で俺を守るというその主に手を伸ばし掴む寸前で光に遮られ消えてしまう。

腕の中に残るのは疑問とえもいえぬ喪失感。

なぜ?

なぜ、俺を守る等と言うのか。
守られる必要などありはしないのに。


そこまで考えた時点で目が覚めた。
ベッドの中で寝返りをうつ起きるのが憂鬱だがそうも言ってられないので手早く用意を済ませる。

余りゆっくりしているとメイドが呼びに来てしまう。

白いカーテンから差し込む光は鮮やかで、今日も天気は良さそうだ。

天気とは裏腹で落ち着かない苛々とする。

何かをしなければ為らないのにも関わらず何をしなければ為らないか分からない思い出せない。

酷い焦燥感。

早く、早くと急かされる。
恐らく無くした記憶に起因する事なのだろう。

記憶障害。

俺は七年前誘拐されてのちバチカル廃工場跡で発見されるまでの数週間全ての記憶を失っていた。
何があったのか、犯人は誰か、何の目的が有ったか、何故廃工場跡で倒れていたのか、限りない疑問は全ては失った記憶と共に消失してしまった。

唯一の手掛かりは手に握りしめていたという小さな瑪瑙の指輪だけ…。

分からない事ばかりだ。

そこまで考えて溜息をついた時、窓硝子を叩く音が聞こえた。
思わず無意識に笑みが零れる。

返事をすれば窓から入室して来た非常識な人物は年上の使用人兼幼かった自分の子守役として雇われたガイ・セシルその人だった。

「おはようルーク、朝食の準備が出来てるぜ ?」


使用人らしからぬ砕けた物言いも態度も彼だからこそ許されたもの。





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