ユグドラシル

□Sapphire Blue
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「一体、何があったと?」

自分の頭上に神経質そうな苛々とした声が降り注ぐ。
どこか聞いた事の有る声に惹かれ目を向ければその人は何時だったか見た時よりも若干若い姿だった。

見覚えのある人物。

そう、かって仲間であり自分を造り出す技術を開発した、かの天才軍人。
ジェイド・カーティスの幼なじみにして敵。

『死神のディスト』

そう言えば、レプリカ計画はヴァン師匠が発案、ディストが技術開発と実施をしたんだったと思い出した。
何処か回らない頭で考えていたら椅子に座らされている俺の顔を見る為にディストが覗き込んで来た。

銀灰の髪に瑪瑙の様な瞳。

色素が薄いのだろうなんて関係無い事を考えていたら顔にかかる前髪をさらりとかき上げられた。

まるで熱を測る様な掌の仕草と温かさに誰を思い出してか途端に泣きたくなる。


「超振動が起こったと?」

側に控えていた他の研究員に確認を取る。
ただ事実だけを追求する研究者の声色で…。

「ああそうだ。
確かに超振動が起こった。
それは間違いは無い。
それに超振動に伴う第七音素の集束と拡散も確認された。」


誰かが超振動を行使した。

張りの有るバリトン。
高らかに靴を鳴らす音。

ディストの質問に回答したのは研究員ではなかった。

「…ヴァン」

ヴァン・グランツ揺将。

師匠。

〈過去〉に立ち戻ると言う事は師匠とまた戦うと言う事…。

頭では理解していても感情は着いては行かない。
心的外傷とは恐ろしいもので〈過去〉で倒しているはずにも関わらず身体が無意識に竦む。

「ルークには万が一の事も考えて身動き出来ない様に薬を投与していた。
そうなるとレプリカにしか超振動を起こせる者はこの場に存在しないのだが…、どう考える?」


あれほど大好きだった師匠の存在が今はただ痛い。

言葉も視線も、あの時と変わらず〈道具〉を見る目そのもので…。

「有り得ません。」

彼は視線を俺から外し真っ直ぐに師匠を見据える。

「素養のある被験者ですらかなりの訓練を必要とするのに、それを生まれたばかりのレプリカが偶発的にしろ引き起こす等と考えられません。」


ディストの俺に対する視線は底冷えのする研究者が実験対象を見る目に外ならなかった。



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