ユグドラシル

□言葉の痛み
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最初は只の好奇心。



彼女が傾倒する『彼』に興味が湧いただけ。


底意地の悪い、自分の性格は理解しているつもりだったから。

だから、彼女が言う彼がそんなにもいい人ならばほんの少し試してやろうと思った。

所詮、自分が居なくなったあとどんな事になろうと知った事ではなかったから。



その時はそう考えていたんだ…。



・・・・・



パラリ、パラリと軽い本をめくる音がする。

そこは薄暗く、陽の光りも余り差し込まない。

古い本特有の湿っぽいインクの臭いが立ち込めている

音の主である少年は本を取る為の書架の上に居た。

場所は図書室の奥。

主に一般には出回らない専門書ばかりが置いてある一角。



そこに目的の人物は居た。

年の頃なら十三、四歳。
穏やかな整った顔立ちの少年。

肩に付くか付かないかぐらいの髪は鮮やかな緋色で、驚く事に瞳を縁取る睫毛までもが緋色をしている。

髪の色素が薄いのか毛先は金色で動く度にキラキラと光が撒いた様になる。

瞳は翡翠。

翠なんて自分に取っては見慣れ過ぎて余り好きな色ではなかったけれど…。

ただ驚いた。

純粋に、他意無くその存在が綺麗だと思った。

そしてそんな事を思う自分にも。

まさに青天の霹靂。


他の人間なんて嫌悪の対象でしかなかった。

自分の力で何一つ掴み取ろうとせず他人の力を宛にする。


預言に縛られた愚かな人間。


足を踏み出し一歩近付く。
朱色は気配に気付いたのか目を落としていた本から顔を上げた。

僕と目が合う。

同一で違う翡翠の瞳。
やっぱり綺麗だと思う。


「こんにちは、始めまして。
僕はイオンと言います。」


驚きでその宝石の様な瞳が見開かれる。

どこか彼を驚かせた事に対して小気味よく感じながら僕は言葉を紡ぐ。


残酷で彼を傷付ける言葉を…。



僕等は始まりの挨拶を交わした。




【言葉の痛み】


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